【使用者向け】社員の採用—採用内定の取消し

【質問】

新興国発の金融危機や、円相場の乱高下等により日本市場も大打撃を受け、我が社の業績も急速に悪化してしまいました。

不本意ながら、当社でも大規模なリストラを実施せざるを得ない状況です。

これまで当社の業績は右肩上がりだったことから、今年度は例年以上に多くの新卒予定者に採用内定を出していましたが、急速なマーケット環境の変化等により、採用計画自体を見直すべく、一定程度採用内定を取り消したいのですが、採用内定を取り消すことは可能でしょうか? 

【回答】

本件は経済変動による経営悪化に際しての採用内定取消しのケースと考えられますので、採用内定取消しが適法とされるためには、整理解雇に準じて、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、及び④手続の妥当性の要素を総合考慮の上、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当であることが必要となります。

かかる要件を満たすかどうかは個別事情に応じたケースバイケースの判断となりますが、裁判所は使用者のなした内定取消しに対して厳しい態度をとる傾向があることにも注意が必要です。

採用内定取消しが無効とされた場合、会社は内定者に対して、毎月の給与相当額の支払に加えて、会社の誠実義務違反を理由とする債務不履行又は内定者の期待権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任も負う可能性があります。

【解説】

1. 採用内定の法的性質

社員の採用—入社前研修の無断欠席で解説したとおり、採用内定の法的性質について、最高裁判例は、企業による募集が労働契約申込の誘因であり、これに対する応募(受験申込書・必要書類の提出)又は採用試験の受験が労働者による契約の申込み、そして採用内定通知の発信が使用者による契約の承諾である、とする一方、当該契約は採用内定通知書又は誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合は解約できる旨の合意が含まれており、また卒業できなかった場合にも当然に解約できるものであり、「始期付」かつ「解約権留保付」の労働契約である、と解しています(大日本印刷事件(最高裁昭和54年7月20日労判323号))。 

2. 内定取消しの適法性

前述のとおり、判例は採用内定を始期付解約権留保付労働契約と整理しているため、内定取消しの適法性は留保解約権の行使の適法性の問題となります。

判例は、留保解約権の行使が適法とされるのは、「解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」との限定を付しています(大日本印刷事件、電電公社近畿電通局事件(最高裁昭和55年5月30日労判342号))。

具体的には、採用内定通知書等における「提出書類への虚偽記入」という取消事由も、その文言どおりには受け入れられず、虚偽記入の内容・程度が重大なもので、それによって従業員としての不適格性あるいは不信義性が判明したことを要する、としています(日立製作所事件(横浜地裁昭和49年6月19日判時744号))。

なお、解約権行使の適法性について、裁判所は使用者のなした内定取消しに対して厳しい態度をとる傾向にあることにも注意が必要です。

また、経済変動による経営悪化に際しての採用内定取消しについても、整理解雇に準じた検討が必要であるとして、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、及び④手続の妥当性の要素を総合考慮の上、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当であることが必要としています(インフォミックス事件(東京地裁平成9年10月31日労判726号))。

3. 内定取消しの通知

新卒者の採用内定を取り消す場合、会社は所定の様式により、公共職業安定所(ハローワーク)及び学校長に通知する必要があります(職安法規則35条2項2号)。

4. 内定取消しと損害賠償

会社の内定取消しが無効となった場合、内定者は、毎月の給与相当額の支払に加えて、会社の誠実義務違反を理由とする債務不履行又は内定者の期待権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任も負う可能性があります(大日本印刷事件)。

また、内定取消しが有効な場合であっても、内定からその取消しに至る過程で、会社側が信義則上必要とされる説明を怠ったことを理由に、損害賠償責任を課せられることもあります。

5. ご相談のケースについて

本件は経済変動による経営悪化に際しての採用内定取消しのケースと考えられますので、採用内定取消しが適法とされるためには、整理解雇に準じて、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、及び④手続の妥当性の要素を総合考慮の上、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当であることが必要となります。

かかる要件を満たすかどうかは個別事情に応じたケースバイケースの判断となりますが、裁判所は使用者のなした内定取消しに対して厳しい態度をとる傾向があることにも注意が必要です。

採用内定取消しが無効とされた場合、会社は内定者に対して、毎月の給与相当額の支払に加えて、会社の誠実義務違反を理由とする債務不履行又は内定者の期待権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任も負う可能性があります。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。

また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。