業務の遂行—社員の口髭・長髪等の禁止

【質問】

タクシー会社を経営していますが、ハイヤー運転手として雇用している当社の社員Xは、口髭・長髪を禁止する当社の内規に違反して口髭をはやしており、また髪もぼさぼさにのばしたままです。

Xに対しては何度も口髭を剃り、髪も整えるよう注意したのですが、一向に改める気配が見られません。

今のところ、お客様からは目立ったクレームを受けていないのですが、他の社員の目もありますし、Xに対して何らかの処分を検討していますが、何か問題があるでしょうか? 

【回答】

社員Xは服務規律の対象となりますが、口髭や髪型を規制した内規が企業の円滑な運営上必要かつ合理的な規定といえるか、慎重に検討することが必要となります。

また、当該内規が必要かつ合理的であり、Xが当該内規に違反していたとしても、直ちに懲戒処分をすることができるとは限らないことにも注意が必要です。

【解説】

1. 会社の服務規律及び企業秩序

多くの会社では、「服務規律」と称される従業員の行為規範が就業規則等において定められています。

この「服務規律」とは、労働者の服務上の規律、すなわち労働者の就業の仕方及び職場のあり方に関する規律をいい、その中心的内容の一つに服装規定も含められます。

判例は、社員がかかる服務規律を遵守する義務を負う根拠として、「一般に、使用者は、労働契約関係に基づいて企業秩序維持のために必要な措置を講ずる権能を持ち、他方、従業員は企業秩序を遵守すべき義務を負っている」(JR東日本(高崎西部分会)事件(最高裁平成8年3月28日労判696号))と判示しています。

このように、会社は労働契約に基づき企業秩序を維持する権能を有し、社員はかかる企業秩序遵守義務を負い、服務規律に服することとなります。 

2. 服装等に対する制約の可否

かかる服務規律の一内容として、会社は社員に対して、服装・口髭・髪型等の容貌に関して会社の内規に従うよう求めることがあります。

もっとも、前述のとおり、企業秩序及びその遵守義務は、企業及び労働契約の性質そのものに根拠が求められることから、社員は企業及び労働契約の目的上必要な限りでのみ企業秩序に服し、企業の一般的な支配に服するものではありません

具体的には、企業秩序において規定される規則や命令は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであることを要し、事業場の風紀秩序を乱すおそれがないと認められる行為については企業秩序の違反は成立しません。

また、労働契約は社員の私生活に対する会社の支配までをも正当化するものではありませんから、社員の私生活上の行為は実質的にみて企業秩序に関連性のある限度においてのみその規制の対象とされ得ます

3. ご相談のケースについて

ご相談のケースに類似した裁判例として、ハイヤー運転手が口髭を生やすことが会社内規中の身だしなみ規定に違反するかについて、同規定で禁止された髭は無精髭とか異様、奇異なひげのみを指すものであり、格別の不快感や反発感を生ぜしめない口髭は該当しない、と判示したものがあります(イースタン・エアポートモータース事件(東京地裁昭和55年12月15日))。

制服等と異なり、口髭や髪型は勤務時間外の私生活にも及ぶことから、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な内規といえるか、より慎重な判断が必要となります。

また、当該内規が必要かつ合理的であり、Xが当該内規に違反していたとしても、服装や髪型は個人の人格的利益・人格権に属する事柄ですから、直ちに懲戒処分をすることができるとは限らないことにも注意が必要です。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。

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