【使用者向け】社員の採用—本採用拒否と解雇予告手当て

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

 

【質問】

新たに中途採用した社員について、応募時に提出された経歴書・履歴書に記載されていた最終学歴が虚偽であることが判明しました。まだ試用期間中ですが、当該社員の人物にも問題が多く、配属先の社員と衝突を繰り返してばかりいることから、本採用については取りやめようと思っています。この場合も、解雇予告手当てを支払わなければいけないのでしょうか。

 

【回答】

試用期間中の社員を使用してから14日を経過していない場合、又は14日経過後であっても最終学歴の詐称という「労働者の責に帰すべき事由」を理由として解雇し、行政官庁の認定を得た場合には、解雇予告制度は適用されず、解雇予告手当の支払は不要です。

それ以外の場合には、少なくとも30日前の解雇予告又は解雇予告手当の支払が必要となり、違反した場合には会社に対して6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられるとともに、未払いの予告手当てと同額の付加金の支払を命じられることになります。

 

【解説】

解雇予告制度

会社は、労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をする必要があり、30日前に予告をしない場合は、会社は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労基法20条1項本文)。

なお、この予告日数は平均賃金1日分を支払った日数だけ短縮することができ(労基法20条2項)、解雇予告手当は解雇の申し渡しと同時に支払う必要があります(昭和23年3月17日基発464号)。

 

解雇予告制度の例外

前述のとおり、会社は労働者を解雇しようとする場合、原則として解雇予告が必要となりますが、以下のいずれかに該当する場合には例外的に解雇予告(又は予告手当ての支払)が不要となります。

  1. 「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」かつ行政官庁(労働基準監督署長)の認定を得たとき(労基法20条1項但書、同条3項・同法19条2項)
  2. 「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」かつ行政官庁(労働基準監督署長)の認定を得たとき(労基法20条1項但書、同条3項・同法19条2項)
  3. 日々雇い入れられる者(労基法21条1号)
  4. 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(労基法21条2号)
  5. 季節的業務の場合には4ヶ月以内の期間を定めて使用される者(労基法21条3号)
  6. 試用期間中の者(労基法21条4号)

ただし、3〜6については、それぞれ、3:日々雇い入れられる者が1ヶ月を超えて引き続き使用されるに至った場合、4:2ヶ月以内の期間を定めて使用される者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合、5:季節的業務の場合には4ヶ月以内の期間を定めて使用されるに至った者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合、及び6:使用期間中の者が14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には、解雇予告が必要となります(労基法21条但書)。

また、2:「労働者の責に帰すべき事由」については、当該労働者が予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為を意味するものと解されており、限定的に解されていることに注意が必要です。もっとも、最終学歴等の重大な経歴の詐称であれば、通常はかかる「労働者の責に帰すべき事由」に該当するものと思われます。

 

違反時の罰則

会社が解雇予告義務に違反して解雇した場合、会社は6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることがあります(労基法119条1号)。また、解雇された社員が付加金の支払請求をした場合、未払いの予告手当てと同額の付加金の支払を裁判所から命じられることがあります(労基法114条)。

 

ご相談のケースについて

前述のとおり、試用期間中の社員を使用してから14日を経過していない場合、又は14日経過後であっても最終学歴の詐称という「労働者の責に帰すべき事由」を理由として解雇し、行政官庁の認定を得た場合には、解雇予告制度は適用されず、解雇予告手当の支払は不要です。

それ以外の場合には、少なくとも30日前の解雇予告又は解雇予告手当の支払が必要となり、違反した場合には会社に対して6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられるとともに、未払いの予告手当てと同額の付加金の支払を命じられることになります。

 

  • 【参考文献】菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

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