【使用者向け】企業秩序⑧−私生活上の犯罪行為を行った社員に対する懲戒処分

【質問】

当社福岡支店の支店長Xは、休日にカラオケ店で女性に対してわいせつ行為を働いたとのことで、地元警察に逮捕されてしまい、事件は地元新聞にも掲載されてしまいました。

社内調査の結果、Xには過去にも同様のわいせつ行為や痴漢行為等で逮捕・起訴された犯歴があることが判明したため、今回の逮捕を理由に、Xを懲戒解雇することを検討しています。

当社はXを懲戒解雇することは認められるでしょうか。

 

【回答】

社員の私生活上の犯罪行為に係る懲戒処分の有効性については、①犯罪行為の重大性、②会社の事業の内容・規模、③当該社員の会社内における地位、④会社に対する影響の程度等がポイントとなるところ、わいせつ行為は軽微な犯罪とはいえず、Xには過去にも同種の犯歴があること、また、Xは支店長の立場にあること、さらに、Xによる犯罪行為が地元新聞に掲載されており、会社の名誉・信用に少なくないダメージを与えたこと等を考慮すると、Xに対する懲戒解雇は有効に認められるものと思われます。

 

【解説】

企業秩序と服務規律

服務規律とは、服務に関する規範を中心として、会社が社員に対して設定する就業規則上の行為規範をいいます。

かかる服務規律の根拠として、判例上、会社は、労働契約関係に基づき、社員に対して企業秩序維持のために必要な措置を講ずる権能を持つとともに、社員は企業秩序を遵守すべき義務を負っている、とされています(JR東日本(高崎西部分会)事件(最高裁平成8年3月28日労判696号))。

 

職場外の行為と企業秩序

もっとも、かかる服務規律は社員が職場で服するルールであり、職場外における社員の行為には及ばないのが原則です。ただし、例外的に、職場外の行為が職場における職務に重大な悪影響を及ぼす場合には、服務規律の効力が及び、会社は当該社員に対して懲戒その他の処分を行うことが可能となります。

具体的には、最高裁判例において、職場外での職務遂行に関係がない行為であっても、企業秩序に直接の関係を有するものや、評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、企業秩序維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあり得る、とされています(国鉄中国支社事件(最高裁昭和49年2月28日労判196号))。

 

私生活上の犯罪行為を理由とする懲戒処分の可否

社員が私生活上の犯罪行為を行った場合の懲戒処分の有効性に関する裁判例を整理すると、概要以下のとおりです。

裁判例

判決の概要

国鉄中国支社事件(最高裁昭和49年2月28日労判196号)

以前犯した犯罪行為による休職中に政治活動に参加して再度犯罪行為を行った国鉄職員に対して懲戒免職処分を下したところ、懲役刑の程度、これまでの犯罪歴等を考慮し、懲戒免職処分を有効とした。

小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高裁平成15年12月11日労判867号)

鉄道会社の社員が複数回にわたり電車内で行った痴漢行為により逮捕・起訴された事案について、軽微な犯罪とはいえないこと、鉄道会社の社員は倫理規範として痴漢行為を行ってはならないこと、会社が痴漢行為撲滅運動に力を入れていたこと等を根拠に懲戒解雇を有効とした。

退職金等請求事件(東京地裁平成18年5月31日)

死体遺棄罪で刑事処分を受けた社員に対する懲戒解雇について、犯罪の内容(実父の遺体を4ヶ月放置)、処分の内容(懲役2年執行猶予3年)、職務上の地位(管理職で部下が9名)、報道の状況(マスコミで繰り返し報道され、会社の名誉等を毀損)等を根拠として、有効とした。

横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日)

住居侵入罪を犯して罰金刑に処せられた社員に対する懲戒解雇について、私生活上の範囲内で行われたものであること、罰金刑の程度(2、500円)、社員の職務上の地位(工員に過ぎず、管理職ではない)などを考慮して、無効とした。

日本鋼管事件(最高裁昭和49年3月15日)

米軍基地拡張の反対運動に参加し、刑事特別法に違反して罰金刑に処せられた社員らに対する懲戒解雇及び諭旨解雇について、動機(破廉恥な動機・目的ではない)、罰金刑の程度(2、000円)、会社の規模(社員3万名の大企業)、社員の会社内における地位(工員に過ぎない)等を考慮して、無効とした。

これらの裁判例から読み取れるとおり、社員の私生活上の犯罪行為について懲戒処分を下す場合、その有効性については、①犯罪行為の重大性、②会社の事業の内容・規模、③当該社員の会社内における地位、④会社に対する影響の程度等がポイントとなるものと思われます。

 

ご相談のケースについて

わいせつ行為は軽微な犯罪とはいえず、Xには過去にも同種の犯歴があること、また、Xは支店長の立場にあること、さらに、Xによる犯罪行為が地元新聞に掲載されており、会社の名誉・信用に少なくないダメージを与えたこと等を考慮すると、Xに対する懲戒解雇は有効に認められるものと思われます。

 

  • 【参考文献】菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

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