【使用者向け】解雇①—成績不良社員の解雇

【質問】

コンサル会社を営む当社では、将来の幹部候補として、2年前にXを中途採用しました。

しかし、この2年間、Xには5つのプロジェクトに従事しましたが、そのほとんどで期待される能力・適格性が平均に達しておらず、また、X自身、能力不足の自覚に欠け、改善が期待できません。

当社としては、Xが改善できるよう誠実に交渉を重ねてきたつもりですが、依然として改善の兆しが見られないことから、Xの解雇を検討しています。

Xを解雇することに何か問題があるでしょうか。

 

【回答】

採用後2年間、Xは5つのプロジェクトに従事したものの、そのほとんどで期待される能力・適格性が平均に達していないこと、また、X自身、能力不足の自覚に欠け、改善が期待できないこと、会社として誠実に交渉を重ねてきたことを考慮すると、解雇権濫用法理に抵触せず、Xの解雇は有効と認められるものと思われます。

 

【解説】

普通解雇

労働契約は、社員が会社のために労働し、会社がこれに対して賃金を支払う契約をいう(労働契約法6条)ところ、普通解雇とは、労務の提供という債務の不履行状態にある社員に対して、会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。

かかる労務提供債務の不履行としては様々な事由が考えられますが、典型的なものとしては、①労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如、②労働者の規律違反、③経営上の必要性(整理解雇)、④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求、という4つの類型に分類することが可能です。

ご相談のケースでは、このうちの①が問題となります。

 

普通解雇に係る実体的規制(解雇権濫用法理)

前述のとおり、普通解雇とは会社が一方的に社員との労働契約を終了させることをいいますが、解雇は社員に多大な影響を与えるものであるため、会社による解雇を無制限に認めるべきではなく、一定限度の制限を加える必要があります。

そこで、普通解雇に係る最も重要な実体的規制として、過去の判例の集積に基づき、労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しています(解雇権濫用法理)。

もっとも、かかる解雇権濫用法理は抽象的な規範であるため、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか否かは、事案及び解雇事由に応じて個別具体的に判断されることとなります。

具体的には、ご相談のケースのように、①労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如を理由に解雇する場合には、当該会社の業務内容、規模、当該社員の職務内容、雇用形態、採用理由、職務に要求される能力、勤務成績、当該社員の経歴、改善可能性の有無等を考慮し、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか判断することとなります。

なお、解雇権濫用法理以外に、普通解雇に係る実体的規制として、たとえば、国籍、信条、社会的身分による差別の禁止(労基法3条)や、業務上災害や産前産後休業の場合、休業している期間及びその後30日間は解雇の禁止(労基法19条)といった規制があることにも留意が必要です。

 

普通解雇に係る手続的規制

解雇権濫用法理等の実体的規制に加えて、会社は、社員を解雇する場合、少なくとも30日前にその予告をするか、そうでない場合は30日以上分の平均賃金を支払わなければならない(労基法20条1項)といった手続的規制も遵守する必要があります。

かかる解雇予告義務に違反した場合、解雇通知後30日後に期間を経過するか、又は解雇通知後に予告手当ての支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力が生じるものとされています(細谷服装事件(最高裁昭和35年3月11日判時218号))。

 

ご相談のケースについて

ご相談のケースは、①労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如を理由に解雇する場合に該当するところ、採用後2年間、Xは5つのプロジェクトに従事したものの、そのほとんどで期待される能力・適格性が平均に達していないこと、また、X自身、能力不足の自覚に欠け、改善が期待できないこと、会社として誠実に交渉を重ねてきたことを考慮すると、Xの解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」とはいえず、解雇は有効と認められるものと思われます。

 

  • 【参考文献】菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

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