労働条件切り下げへの対処

労働条件切り下げへの対処

第1 労働条件が切り下げられたら

 

「来月から急に給料を4分の1カットされることになってしまった…」

「若手世代とのバランスという理由で,退職金を1割減らされることになってしまった…」

 

ある日,突然に給与を下げられたり,退職金を減額されたりする…
このようなことは決して珍しくなくなってきています。

使用者の立場が強い以上,労働者は泣き寝入りしなければならないのでしょうか?
いいえ,決してそのようなことはありません。

詳しくはこれからご説明します。

第2 労働条件変更の原則

 

1 労働者の同意のない変更は無効です!

そもそも,労働条件は,労働者と使用者の合意に基づき決定されるのが原則です(労働契約法3条1項)。

そして,労働条件の変更も,労使の合意に基づいて行われることが原則です(労働契約法8条)。

実際には,労働者の同意を得ることもなく,使用者が一方的に給与を引き下げたりするケースが見受けられます。

ですが,このような労働条件の変更は無効です。
そして,労働条件の変更が無効であれば,労働者は引き下げ前と同じ労働条件で働くことができるのです。

2 黙っていたらどうなる?

そうは言っても,使用者の立場が強いために,なかなか異議を唱えることができないことも現実には珍しくありません。

このような場合,労働条件の変更について,黙示の同意があったとみなされてしまうケースもありますので,注意が必要です。

3 同意を迫られたらどうする?

それでは,使用者から労働条件の変更について同意を求められたら,どうするべきでしょうか?

そもそも,労働者には同意する義務もなければ,即答する義務もありません。
そこで,まずはその場で回答せず,「一旦考えさせてもらいます。」等と言って回答を留保するべきです。

その上で,使用者から労働条件を変更する理由を確認したり,同意の求め方が威圧的ではないかどうかチェックしたりするべきです。
場合によっては,この段階で弁護士などに相談するとよいでしょう。

4 同意してしまったらどうする?

それでは,すでに同意してしまった場合はどうでしょうか?

この場合でも,まったく対策がないわけではありません。

まず,使用者との合意内容が法令や就業規則,労働協約に違反していないか検討するべきです。

また,同意するにあたり,使用者から脅かされたり(強迫),嘘をつかれたり(詐欺)したなどという事情があれば,取消を主張できることもあります。

第3 就業規則の作成・変更による労働条件切り下げ

 

1 就業規則の作成・変更をされたら

使用者が労働条件を切り下げる方法として,就業規則を新たに作成したり,変更したりする場合があります。

このような場合,労働者がそのような就業規則を受け入れなければならないのかどうかが問題になります。

就業規則の新たな作成や変更の場面では,主に以下の点を検討する必要があります。

①   法律上必要な手続がとられているかどうか

②   作成又は変更に合理性が認められるかどうか

③   法令又は労働協約に違反していないかどうか

 

2 法律上必要な手続について

法律上必要な手続を挙げると,以下のとおりです。
これらの手続に問題がないか,しっかりと見極める必要があります。

労働条件図

3 どのように対応する?

実際に就業規則が新たに作成されたり変更されたりした場合,まずは変更前の就業規則と変更後の就業規則を比較検討することから始める必要があります。

その次に,法律上必要な手続がとられたかどうか(過半数代表者からの意見聴取が行なわれたかどうか,労基署への届出がされたかどうか等)をチェックすることになります。

そして,就業規則の作成や変更に合理性があるかどうかを判断するために,使用者に対し,就業規則の作成や変更の必要性について説明を求めるべきです。

また,労働組合が結成されている場合には,使用者と団体交渉を行なうことも考えられます。

大切なことは,就業規則が作成されたり変更されたりしても,すぐに諦めるのではなく,何かできることはないか検証していくことです。

第4 労働協約締結による労働条件切り下げ

使用者と労働組合との間で労働協約が締結された結果,労働条件が不利益に変更される場合もあります。

このような場合,当該組合の組合員は,原則として協約の定めた労働条件の適用を受けることになります。

もっとも,労働協約を締結したからといっても,無制限に労働条件を切り下げることができるわけではありません。
労働協約による労働条件の切り下げが限界を超えた場合には,無効と判断されるケースもあります。

また,労働協約の効力は,労働協約を締結した組合の組合員にだけ適用されることが原則です。

したがって,果たして自分にも労働協約が適用されるのか検討する必要があります。

第5 降格・配置転換を理由とした労働条件切り下げ

 

1 降格を理由とした労働条件の切り下げについて

「降格」とは,役職や職位,資格を引き下げる措置を言います。
そして,降格は賃金の減額を伴うことが通常です。

降格には以下のような種類がみられます。

① 懲戒処分としての降格
労働者の秩序違反行為に対する制裁としての降格処分です。

懲戒処分として行なわれるわけですから,懲戒処分の有効性を満たす必要があります。

そこで,懲戒処分としての降格の有効性を争う場合には,懲戒処分の要件を満たすかどうかを検討する必要があります。

② 人事上の措置として行なわれる役職・職位の引き下げ
人事権として行なわれますが,人事権も無制限に認められるものではなく,人事権の濫用として無効と判断されるケースもあります。

そこで,人事上の措置として行なわれた場合には,濫用と言える余地がないか検討する必要があります。

③ 職能資格制度における資格や等級の引き下げ
職能資格制度を利用した引き下げの場合,就業規則の規定が必要になります。

そこで,そのような就業規則があるかどうかを検討する必要があります。

2 配置転換を理由とした労働条件の引き下げについて

役職や職位等の引き下げではなく,配置転換(職務内容の変更)を理由に賃金を切り下げるケースもあります。

ですが,単なる職務内容の変更に伴う賃金の切り下げは,労働者の同意や就業規則の定めがない限りは無効です。

第6 個別査定に基づく労働条件切り下げ

また,最近では,成果主義を反映し,個別査定によって賃金や賞与を定める企業も増えてきました。
そして,個別査定を口実に,事実上賃金の切り下げを行なうケースも散見されます。

個別査定であるからと言っても,賃金の切り下げが無制限に認められるわけではありません。

個別査定に基づく賃金の切り下げが有効であるためには,以下の条件が必要になります。

① 労働契約上の根拠
賃金の切り下げを予定した賃金制度が個別に同意されたり,有効な就業規則で定められたりしていること

② 制度内容の合理性
評価基準等の実体面,評価方法等の手続面のいずれも合理的な内容であること

③ 実際の査定が合理的であること

 

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