■損害賠償の予定がある場合の対処

損害賠償の予定がある場合の対処
 

1 具体例

 

「勝手に退職した場合には,入社したときに遡って毎月5万円の違約金を支払ってもらう。」

「見習い中に退職した場合は,それまでの食費等は返してもらう。」

 
会社との間でこのような契約があるために,辞めようと思っても辞めることができない,ということも少なからず見受けられます。

このような場合,安易に「契約だから…。」と諦めず,そもそもこのような契約が有効と言えるのか,ということから検討しましょう。
 

2 違約金の定め・損害賠償額の予定の禁止

この点に関し,労働基準法16条を見てみましょう。
 

(賠償予定の禁止)

第十六条  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 
このように,労働基準法16条は,違約金や損害賠償の予定を禁止しています。

もし,契約期間中に退職した場合の違約金や,損害賠償の予定の規定が許されることになれば,労働
者は仕事を辞めたくても事実上辞めることができなくなります。
結果として,労働者は続けたくもない仕事を強制されることになってしまいます。

そこで,労働契約法16条は,労働者の退職の自由を確保する趣旨で,違約金や損害賠償の予定を禁止しているのです。

したがって,さきほど紹介したケースでは,途中退職した場合の違約金を設定したり,食費の返還を求めたりしており,労働基準法16条に違反し,許されないことになります。
 

3 研修費用,留学費用の返還を求められた場合

では,研修費用や留学費用の場合はどうでしょうか。

例えば,以下のような規定を置いているケースがあります。
 

自動車免許取得のための研修費用を立て替え,出勤率80%以上で2年間勤務すれば研修費用の返還義務を免除する

 

海外留学費用を援助するが,帰国後一定期間を経ずに特別な理由なく退職した場合には,留学費用を返還する

 
一見すると,これも違約金や損害賠償を定めているようにも思われるため,労働基準法16条に違反するのではないかとも思われます。

このような場合,労働基準法16条に違反するかどうかは,形式的ではなく,実質的に判断されることになります。

具体的には,以下のような諸事情を勘案することになります。

① 研修等を受けることが労働者の自由な意思によるかどうか
② 研修棟が業務の一環と言えるかどうか
③ 研修終了後の拘束期間
 

4 サイニングボーナスの返還を求められた場合

それでは,サイニングボーナス(入社時にまとまった金額を支給し,一定期間内に退職しなければ返還を求めないが,退職した場合には返還させる旨の合意)の場合にはどうでしょうか。

このような合意についても,やはり労働基準法16条に違反するかどうかが問題となります。

 
【参考文献】労務相談実践マニュアル 227頁〜
 

お問い合わせはこちら