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37の裁判例からみる同一労働同一賃金の原則 実務と対策

2020-04-27

1 はじめに 本稿の趣旨

2020年4月1日より、同一労働同一賃金の原則に基づき、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」。本稿では、「パート有期法」と記載します。)が施行されることになりました。同法は、まず大企業を対象とし、中小企業は2021年4月1日まで猶予されることになります。

国は、平成30年12月28日、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下「同一労働同一賃金ガイドライン」という)を公表し、同一労働同一賃金の原則に関する基本的な考え方及び各手当に関する不合理な待遇の相違例を明示しました。

また、国は、同一労働同一賃金ガイドラインに続き、以下のパンフレット等を公表し、同一労働同一賃金の原則に照らした賃金体系の導入を促しています。

  • パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書
  • 不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル【業界共通編ほか】
  • 職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル

このように、国は、同一労働同一賃金の原則に照らした賃金体系の導入を促している一方、同一労働同一賃金ガイドラインにおいても、すべての賃金体系について網羅的に扱うことはできておらず、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していく必要がある旨を述べています。

そこで、本稿では、現時点に公表されている裁判例を分析し、同一労働同一賃金の原則に照らして、いかなる賃金体系であれば不合理な待遇差と評価されないものかどうか、検討することに主眼を置いています。

具体的には、同一労働同一賃金の原則は、パート有期法改正以前は、労働契約法20条の問題として整理されていることから、以下の調査方法により検討裁判例を選定した上、各裁判例で言及された賃金体系の適否について整理しています。

検索ツール 検索キーワード 検索総数
判例秘書 労働契約法20条 48件
TKCローライブラリー 労働契約法20条 54件

*令和2年4月18日時点

本稿では、上記検索キーワードに該当した裁判例のうち、労働契約法20条に照らして賃金体系の適否を検討した裁判例を37件選定し、各裁判例で検討している手当に関する労働契約法20条違反の有無及びその理由について整理しています。

実務では、同一労働同一賃金ガイドラインを念頭に置きつつ、実際の企業が従前設定していた賃金体系において、「通常の労働者」と「短時間・有期雇用労働者」との間の不合理な待遇差となっていないかどうかを点検・修正するとともに、同ガイドラインでは言及されていない各種手当についても点検・修正することが求められます。

同一労働同一賃金の原則は、中小企業においては2021年4月1日以降に施行されることにかんがみれば、先行して施行される大企業の動向をみながら賃金体系の点検・修正をしていくことが予想されます。

しかしながら、前記のとおり、同一労働同一賃金ガイドラインにおいても、すべての賃金体系について網羅的に扱うことはできていない上、同ガイドラインに示されている基本的な考え方や、「問題にならない例」、「問題になる例」をみても、具体的な個別事例において同一労働同一賃金の原則に照らして適切と断言できるかどうかはっきりしない曖昧さは依然として払拭できません。

そこで、本稿は、労働者20条違反を検討した裁判例を整理・分析することで、実務において、同一労働同一賃金ガイドラインを遵守した賃金体系を構築する際の留意点を確認し、中小企業を中心とした各企業の賃金体系の点検・修正をする一助となることを主眼としています。

参考資料

  • 短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針
  • パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書
  • 不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル【業界共通編】
  • 職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル
  • 平成31年1月30日付け「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」

2 本稿で検討する裁判例

本稿で検討する裁判例は以下の37となります。以下では、各裁判例の番号で表記することとします。 

No 事件名 裁判所 判決日
1 ハマキョウレックス事件(第1審) 大津地判彦根支部 H27.5.29
2 長澤運輸事件(第1審) 東京地判 H28.5.13
3 ハマキョウレックス事件(第2審) 大阪高判 H28.7.26
4 長澤運輸(定年後再雇用)事件(第2審) 東京高判 H28.11.2
5 メトロコマース事件(第1審) 東京地判 H29.3.23
6 ヤマト運輸事件 仙台地判 H29.3.30
7 日本郵便(佐賀)事件(第1審) 佐賀地判 H29.6.30
8 日本郵便(休職)事件(第1審) 東京地判 H29.9.11
9 日本郵便(東京)事件(第1審) 東京地判 H29.9.14
10 学校法人産業医科大学(第1審) 福岡地判小倉支部 H29.10.30
11 学校法人大阪医科薬科大学事件(第1審) 大阪地判 H30.1.24
12 学究社(定年後再雇用)事件 東京地判立川支部 H30.1.29
13 九水運輸商事事件(第1審) 福岡地判小倉支部 H30.2.1
14 日本郵便(大阪)事件(第1審) 大阪地判 H30.2.21
15 医療法人A会事件 新潟地判 H30.3.15
16 五島育英会事件 東京地判 H30.4.11
17 井関松山製造所事件 松山地判 H30.4.24
18 井関松山ファクトリー事件 松山地判 H30.4.24
19 日本郵便(佐賀)事件(第2審) 福岡高判 H30.5.24
20 ハマキョウレックス事件(第3審) 最高裁 H30.6.1
21 長澤運輸(定年後再雇用)事件(第3審) 最高裁 H30.6.1
22 九水運輸商事事件(第2審) 福岡高判 H30.9.20
23 日本郵便(休職)事件(第2審) 東京高判 H30.10.25
24 日本ビューホテル(定年後再雇用)事件 東京地判 H30.11.21
25 学校法人産業医科大学(第2審) 福岡高判 H30.11.29
26 日本郵便(東京)事件(第2審) 東京高判 H30.12.13
27 北日本放送事件 富山地判 H30.12.19
28 ハマキョウレックス事件(差戻審) 大阪高判 H30.12.21
29 日本郵便(大阪)事件(第2審) 大阪高判 H31.1.24
30 大阪医科薬科大学事件(第2審) 大阪高判 H31.2.15
31 メトロコマース事件(第2審) 東京高判 H31.2.20
32 学校法人X事件 京都地判 H31.2.28
33 九水運輸商事事件(第3審) 最高裁 H31.3.6
34 学校法人中央学院事件 東京地判 R1.5.30
35 井関松山ファクトリー事件(第2審)(ネ144) 高松高判 R1.7.8
36 井関松山製造所事件(第2審)(ネ145) 高松高判 R1.7.8
37 学校法人明泉学園事件 東京地判 R1.12.12

3 同一労働同一賃金の原則の考え方

1 同一労働同一賃金の原則を検討すべき時期

冒頭でも紹介したように、2020年4月1日より、同一労働同一賃金の原則に基づき、パート有期法が施行されることになりました。同法は、まず大企業を対象とし、中小企業は2021年4月1日まで猶予されることになります。

それでは、中小企業であればまだ同一労働同一賃金の原則を意識した賃金体系の設計を意識する必要がないかというと、決してそうとはいえない状況にあります。

パート有期法施行以前から、同一労働同一賃金の原則の一内容である「均衡待遇」を定めたパート法・労働契約法20条が存在する上、労働契約法20条違反が指摘された最高裁判決が言い渡されています(2018年6月1日:長澤運輸・ハマキョウレックス最高裁判決)。さらに、2018年12月28日、同一労働同一賃金ガイドラインが公表されたことにより、中小企業も、現時点から同一労働同一賃金の原則を意識して正社員と非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)(以下では、「有期・短期契約社員」と表記します。)との間の待遇差を設計することが求められます。

したがって、大企業はもちろんのこと、中小企業であっても、いまから同一労働同一賃金の原則を意識して対応する必要があります。

2 同一労働同一賃金の原則を検討する上で参考となる資料

参照サイト:厚生労働省 同一労働同一賃金特集ページ

企業が同一労働同一賃金の原則を踏まえた賃金体系を検討する際には、厚生労働省が公表している以下の資料が参考となります。各資料の位置付けを整理すれば、以下のとおりです。

  1. 同一労働同一賃金ガイドライン(「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(平成30年12月28日)」)
    → 同一労働同一賃金の考え方が示されている
  2. パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書
    → 同一労働同一賃金導入のための手順
  3. 不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル
    → 各種手当、基本給等の点検・検討の手順
    → 「業界共通編」と各種業界用のマニュアルを用意している
  4. 職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル
    → 基本給に関する均等・均衡待遇の状況を確認し、等級制度や賃金制度を設計する手法を提示する

上記資料1〜4の体系的な位置付けを整理すれば、「同一労働同一賃金ガイドライン」が資料2〜4の基本的な考え方をまとめたものということができます。

したがって、資料2〜4の細かい解釈を検討する場合には、「同一労働同一賃金ガイドライン」に立ち返っていくことになります。

【厚生労働省の各資料の位置付け】

3 均等待遇・均衡待遇に関する規定の整備

次に、パート有期法の目的及び概要について説明します。

1 パート有期法の目的

パート有期法の目的は、「同一企業内における正社員と非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇の差をなくす」ことにあります。

2 改正の概要

パート有期法は、大きく以下の3点について新たに規定しています。

(1)不合理な待遇差をなくすための規定の整備

パート有期法第8条(均衡待遇)、9条(均等待遇)

(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

パート有期法第14条

(3)行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

パート・有期法第18条、23条以下

3 均衡待遇規定(不合理な待遇差の禁止)

(1)パート・有期法第8条

不合理な待遇の禁止

第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(2)内容

パート有期法第8条は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理な待遇差を禁止する旨を規定します。

なお、同法にいう③その他の事情とは、「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」以外の事情で、個々の状況に合わせて、その都度検討する。成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯は、「その他の事情」として想定されています。

4 均等待遇規定(差別的取扱いの禁止)

(1)パート・有期法第9条

通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止

第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

(2)内容

パート有期法第9条は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いを禁止する旨を規定しています。

均等待遇では、待遇について同じ取扱いをする必要があります。もっとも、同じ取扱いのもとで、能力、経験等の違いにより差がつくことは構いません。

5 パート有期法改正のポイントと労働契約法20条の位置づけ

なお、パート有期法改正のポイントと、労働契約法20条の位置付けを整理したものは、以下の一覧表になります。

  改正前 改正後
均等待遇 パートタイム労働法9条 パートタイム・有期雇用労働法9条
均衡待遇 パートタイム労働法8条 労働契約法20条 パートタイム・有期雇用労働法8条
対象 短時間労働者 有期雇用労働者 短時間・有期雇用労働者
比較対象 同一の事業所に雇用される通常の労働者 同一の事業主に雇用される無期契約労働者 同一の事業主に雇用される通常の労働者(「正規型」の労働者及び事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者)

4 同一労働同一賃金ガイドラインと判例にみる実務と対策

1 同一労働同一賃金ガイドラインの総論のポイント

以下では、「同一労働同一賃金ガイドライン」の総論におけるポイントについて説明します。

1 目的

同一労働同一賃金ガイドラインには、「まずは、各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使の話合いによって確認し、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使で共有することが肝要である。」と記載されています。

上記記載からは、あくまでも賃金体系の設計は、労使の話し合いで決めることが原則とされていることがうかがわれます。

2 基本的な考え方

次に、同一労働同一賃金ガイドライン「第2 基本的な考え方」についてみていくと、以下の2つがポイントになります。

(1)「事業主が、第3から第5までに記載された原則となる考え方等に反した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある。」

上記記載からすれば、同一労働同一賃金ガイドラインに示された考え方に違反したとしても、直ちに違法とまでは断言できるわけではないといえます。結局のところ、待遇の相違が不合理といえるかどうかは、個別のケースによって判断されることになります。

そこで、本稿でも取り上げるように、労働契約法20条に違反するかどうかを検討した裁判例の分析が今後の実務の動向を考える指針になるといえます。

(2)「この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。」

また、上記記載からすれば、同一労働同一賃金ガイドラインに掲載されていない手当等についても個別具体的に検討する必要があります。この意味でも、労働契約法20条に違反するかどうかを検討した裁判例の分析をする必要があるといえます。

3 同一労働同一賃金ガイドラインの性格

なお、前述したように、同一労働同一賃金ガイドラインは、裁判所の法的判断を拘束するものではありません。

もっとも、裁判所が同一労働同一賃金ガイドラインを踏まえて不合理性の判断を行う可能性は高く、事実上同ガイドラインに沿った内容の判決が出ることが予測されます。この点、メトロコマース事件(2審)(東京高判H31.2.20)では、時間外労働割増賃金の割増率の相違の不合理性を検討する中で同一労働同一賃金ガイドラインの内容に言及し、結果的には本指針の内容に沿った判断をしていることが参考となります。

4 同一労働同一賃金ガイドラインの検証

以上が同一労働同一賃金ガイドラインの総論となります。

以下では、同一労働同一賃金ガイドラインの各論として、各賃金項目について同ガイドラインの考え方を掲載するとともに、各賃金項目と労働契約法20条の当否を検討した裁判例を紹介した後、今後の賃金項目の見直しにあたって留意すべき実務上のポイントを紹介していきます。

【検討順序】

  • 基本給
  • 賞与
  • 手当
    •  役職手当
    • 業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当
    • 交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当
    • 精皆勤手当
    • 深夜労働手当または休日労働手当
    • 通勤手当または出張旅費
    • 食事手当
    • 単身赴任手当
    • 地域手当
  • 福利厚生
    • 福利厚生施設
    • 転勤者用社宅
    • 有給の保障
    • 病気休職
    • 法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇
  • その他
    • 教育訓練
    • 安全管理に関する措置及び給付
  • ガイドラインに掲載のない手当
    • 退職手当
    • 住宅手当
    • 家族手当
    • 調整手当

2 基本給

1 ガイドラインの考え方

(1)基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの

基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合において は、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

(2)基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの

基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

なお、基本給とは別に、労働者の業績又は成果に応じた手当を支給する場合も同様である。

(3)基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの

基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年 数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

(4)昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの

昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労 働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。

2 裁判例(上段:正社員 下段:有期短期契約社員)
番号 差異 判断理由 適否
5 月給制
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲に大きな異同がある
  • 正社員には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設けることは 一定の合理性が認められる
  • 10年目における契約社員の本給は正社員の8割以上は確保
  • 契約社員の本給は毎年10円ずつの昇給がある
  • 正社員にない早番手当・皆勤手当も支給されている
時給制
7 月給制
  • 月給制と時給制との違いに基づくものを超える有意な相違の存在を認めるに足りる証拠はない
時給制
11 月給制
  • 職務の内容や異動の範囲が異なる
  • 正職員として就労する方法がないわけでなく、労働者の努力や能力によってその相違の克服が可能
  • 約55パーセント程度の水準であり、相違は一定の範囲内に収まっている
時給制
25 同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じている
  • 控訴人が大学病院内での同一の科での継続勤務を希望したといった事情を踏まえても、30年以上の長期にわたり雇用を続け、業務に対する習熟度を上げた控訴人に対し、臨時職員であるとして人事院勧告に従った賃金の引上げのみであって、控訴人と学歴が同じ短大卒の正規職員が管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず、現在では同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価することができる
27 年齢給及び職能給
  • 再雇用社員と正社員の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲はいずれも異なる
  • 組合との十分な労使協議を経ている
  • 再雇用社員時の月収は給付金及び企業年金を加えると正社員時の基本給を上回る
時間給平均月額賃金は正社員時の約73%
3 実務上の対応

(1)基本給の制度設計の分類

基本給の制度設計は、以下の3パターンが考えられます(同一労働同一賃金ガイドライン)。

  1. 能力または経験に応じて支給するもの
  2. 業績または成果に応じて支給するもの
  3. 勤続年数に応じて支給するもの

1、2、3それぞれに応じた支給金額(基本給に占める割合)が具体的に特定可能であることを前提とした記載がされています。

(2)「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」の参照

実務上は、具体的な賃金テーブルが存在しないために各要因に応じた支給金額の特定が困難なケースや、正社員と短期・有期社員との間の賃金の決定要因が異なるケースなどもあり、ガイドラインの考え方をそのまま当てはめることは難しい場合が多いことが予想されます。

実務上の対応としては、正社員と短期・有期社員ともに具体的な要因に応じた支給金額が明確になっているようなケースを除き、基本的には、両者に待遇差がある場合、両者の職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲からそれが不合理ではないことを客観的・具体的に説明できるかどうかがポイントとなると思われます。

具体的には、「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」(資料4)を参照しながら検討することになるでしょう。

3 賞与

1 ガイドラインの考え方

(1)ガイドラインの考え方

賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。

(2)問題とならない例

イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給している。

ロ A社においては、通常の労働者であるXは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、通常の労働者であるYや、有期雇用労働者であるZは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を課されていない。A社は、Xに対しては、賞与を支給しているが、YやZに対しては、待遇上の不利益を課していないこととの見合いの範囲内で、賞与を支給していない。

(3)問題となる例

イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。

ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
11 あり
  • 一般的に賞与は、月額賃金を補うものとしての性質も有している
  • 長期雇用が想定され、かつ、職務内容等を考慮し、正職員の雇用確 保等に関するインセンティブとして一定の合理性がある
  • アルバイト職員については、同様のインセンティブが想定できず、雇用期間が一定ではないことから、賞与算定期間の設定等が困難であり、透明性や公平感の確保という観点から、労働時間に応じて賃金を支払うほうが合理的である
  • 賞与を含めた年間の総支給額だと、 原告は2013年度新規採用職員の 約55%の水準であり相違の程度は一定の範囲に収まっている
なし
30 11と同様
  • 正職員の賞与は基本給のみに連動しており、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するというほかない
  • 長期雇用への期待という趣旨には疑問がある
  • 全額不支給に合理的な理由は見いだせない
  • 契約社員には正社員に比較して約80%の賞与を支給していることからすれば、支給基準の60%を下回る支給しかしない場合には不合理な相違
3 実務上の対応

上記裁判例をみる限り、賞与の適法性について、裁判上は明確な基準が確立しているとは言い難い状況にあるといえます。賞与の算定ルールを会社側で明確に決めておかなければ、賞与の性質の解釈次第によっては裁判で敗訴するおそれがあります。

そして、上記裁判例【30】にあるように、仮に裁判で有期短期契約社員に対して賞与の不支給が違法であると判断された場合、他の有期短期契約社員にも波及し、企業の人事政策に与える影響は甚大といえます。

正社員に対しては賞与を設定する一方、有期短期契約社員に対しては賞与を支給しないという企業は少なくないかと思いますが、【30】の裁判例のような解釈が一般化した場合、このような人事設計をすることは大きなリスクとなります。

そこで、賞与制度を会社の業績等への労働者の貢献に対する報償として位置付ける場合には、短期・有期社員についても人事評価の対象とするなどして貢献度を定量化するプロセスを導入するとともに、貢献度から大きく逸脱しないように、短期・有期社員に対しても一定の賞与を支給することも検討する必要があるといえます。

4 役職手当

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、通常の労働者と同一の内容の役職に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。

(2)問題とならない例

イ 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就く有期雇用労働者であるYに対し、同一の役職手当を支給している。

ロ 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあっては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。

(3)問題となる例

役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
5 あり
  • 基本給とあわせて判断→不合理ではない
なし
31 5と同様
  • 資格手当は、正社員の職務グループにおける各資格に応じて支給される
  • 契約社員Bはその従事する業務の内容に照らして正社員と同様の資格を設けることは困難である
  • 支給されなくともやむを得ない
3 実務上の対応

役職手当や資格手当は、特定の役職・資格に対して支給される手当である以上、同一の役職・資格であるにもかかわらず正社員と短期・有期社員との間で待遇に相違が生じている場合、その待遇の相違が不合理ではないと説明することは困難と思われます。

したがって、役職手当や資格手当は、正社員に支給している場合、同一の役職・資格を有する有期短期契約社員に対しても支給するべきといえます。

もっとも、短期・有期社員を同一の役職に就任させないという対応は、企業の人事権の一内容として、原則として許容されると考えられます。

5 業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
1 あり 【作業手当・無事故手当】

  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等
なし
3 1と同様 【作業手当】

  • 作業手当が現在は実質上墓本給の 一部をなしている側面があるとしても、正社員給与規程において、特殊業務に携わる者に対して支給する旨を明示している以上、作業手当を基本給の一部と同視することはできない

【無事故手当】

  • 職務の内容は異ならないから、安全運転および事故防止の必要性は、職務の内容によって両者の間に差異が生じない
  • 安全運転及び事故防止の必要性は、労働者が将来転勤や出向する可能性や、会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無によって異ならない
9 あり
  • 外務業務手当は、職種統合による賃金額の激変を緩和するため正社員の基本給の一部を手当化したものであり、同手当の支給の有無は、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来する
  • 具体的な金額も労使協議を踏まえて決定している
  • 郵便外務事約社員は、外務加算額という形で別途反映されている
なし
14 あり
  • 外務業務手当の支給は、外務職の従前の給与水準を維持するという目的を有するものであり、正社員と本件契約社員の雇用期間の差異とは無関係
  • 具体的な支給額も、労使協議の結果を踏まえた上で、統合前後で処遇をおおむね均衡させる観点から算定されたもの
  • 時給制契約社員に対しては外務加算額によって、月給制契約社員に 対しては基本月額等によって、いずれも外務業務に従事することが各賃金体系において反映されており、その金額も外務業務手当と比較して均衡を失するものであるとはいえない
なし
20 1と同様 【作業手当】

  • 特定の作業を行った対価として支給されるものであり、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の手当・  職務の内容は異ならない
  • 職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることによって、行った作業に対する金銭的評価は異ならない

【無事故手当】

  • 職務の内容は異ならないから、安全運転および事故防止の必要性は、職務の内容によって両者の間に差異が生じない
  • 安全運転及び事故防止の必要性は、労働者が将来転勤や出向する可能性や、会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無によって異ならない
3 実務上の対応

(1)基本的運用

特殊作業手当等は、特定の作業を行った対価として支給されるものであり、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であると解されます。

同一の作業に対して支給する特殊作業手当等は、正社員と短期・有期社員ともに同額である必要があると考えられます。

(2)手当の名目について

もっとも、裁判例をみる限り、特定の作業に対して支給される金銭の名目は、必ずしも正社員と短期・有期社員とで同一である必要はないといえます。

6 交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の勤務形態で業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊勤務手当を支給しなければならない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
7 あり
  • 正社員については、早出勤務等がない正社員との間の公平を図る必要から早出勤務等手当が支給されているのに対し、早朝・夜間に勤務する時間制契約社員は、採用の際に早朝・夜間の時間帯を勤務時間とすることを前提とした上で労働契約を締結している
  • 正社員の早出勤務等手当が早朝・夜間に4時間以上勤務した場合であることを支給要件とするのに対 し、時給制契約社員の早朝・夜間割増賃金は同1時間以上勤務した場合であることを支給要件とするなど、支給要件の点では有利
なし
19 7と同様
  • 早出勤務等手当の支給が問題になる時給制契約社員は、そもそも採用の際に同手当の支給対象となる時間帯を勤務時間とすることを前提にして労働契約を締結している
3 実務上の対応

(1)基本的運用

特殊勤務手当は、特定の勤務(交替制勤務等)に対して支給される手当であることから、基本的には同一の勤務に対して支給される手当は正社員・短期・有期社員ともに同一である必要があります。

(2)手当の名目について

もっとも、支給される金銭の名目は、必ずしも正社員と短期・有期社員とで同一である必要はないと考えられます。

7 精皆勤手当

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

通常の労働者と同一の勤務形態で業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊勤務手当を支給しなければならない。

(2)問題とならない例

A社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、そのことを待遇に反映する通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、考課上、欠勤についてマイナス査定を行っていない有期雇用労働者であるYには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
17 あり
  • 無期雇用労働者には月給者と月給日給者が存在する
  • 精勤手当の趣旨は、月給日給者のほうが欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定であるため、 かかる状態を軽減する趣旨が含まれる
  • 有期雇用労働者は時給制であり、欠勤日数の影響で基本給が変動する点は変わりがない
なし
28 あり
  • 皆勤を奨励する趣旨
  • 職務の内容は異ならない
  • 代償措置は不十分
なし
3 実務上の対応

職務内容が同一である場合、正社員と短期・有期社員ともに同一の支給が必要であるといえます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、正社員には欠勤についてマイナス査定を行っているのに対し、短期・有期社員には当該査定を行っていないといった事情があり、正社員にのみ精皆勤手当を支給することが不合理ではないと説明できるような場合には、そのような待遇差も認められるものと考えられます。

皆勤手当を支給しない代わりに合理的な代償措置を講じている場合、その待遇差は不合理なものとは認められない可能性もありますが、裁判例28では結果として正社員のみに皆勤手当を支給することは違法と判断されていますので、厳格に判断される可能性があることは留意する必要があります。

8 時間外労働手当

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労 働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
5 残業手当の割増率127%または135%
  • 早出残業手当は時間外労働に対する割増賃金としての性質を有する
  • 割増賃金義務付けの趣旨は、経済的負担を課すことで時間外労-働等を抑制する点にある
  • 正社員か否かを問わず等しく割増賃金を支払うことが相当
  • 人材の確保・定着を図るという点から割増率の高い割増賃金を支払う合理性はない
125%
31 5と同様
  • 時間外労働の抑制という観点から割増率に相違を設ける理由がない
  • 労使交渉が行われた形跡もない
3 実務上の対応

正社員と同一の時間外労働等を行った短期・有期社員には、所定労働時間を超えた時間につき、正社員と同一の割増率等で、時間外労働等に対する手当を支給しない限り、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

したがって、時間外労働に対する割増率は、正社員と短期・有期社員に対して差異は設けないことが無難といえます。

9 深夜労働手当または休日労働手当

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の割増率等で、深夜労働又は休日労働に 対して支給される手当を支給しなければならない。

2 裁判例

「8 時間外労働手当」と同様

3 実務上の対応

正社員と同一の時間外労働等を行った短期・有期社員には、所定労働時間を超えた時間につき、正社員と同一の割増率等で、時間外労働等に対する手当を支給しない限り、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

したがって、時間外労働に対する割増率は、正社員と短期・有期社員に対して差異は設けないことが無難といえます。

10 通勤手当または出張旅費

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。

(2)問題とならない例

イ A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。

ロ A社においては、通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば、週4日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない(例えば、週3日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
7 あり
  • 月給制と時間給制との違いに基づくものを超える有意な相違の存在を認めるに足りる証拠はない
なし
19 7と同様
  • 業務内容のうち、勤務体制という点では、時給契約社員と正社員では明らかに異なっている。
  • それを前提として時給制か月給制かの相違が設けられている
20 5000円
  • 通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給される手当
  • 労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない
  • 職務の内容および配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは無関係
3000円
3 実務上の対応

正社員と短期・有期社員との間で同一の支給条件にて通勤手当を支給しない限り、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」で示されているように、正社員と短期・有期社員とで採用対象とした地理的範囲が異なること等を理由として、通勤手当の支給条件に差異があることが不合理ではないと認められるような場合には、そのような取り扱いが違法ではないと判断される余地もあります。

11 食事手当

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。

(2)問題とならない例

A社においては、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者であるXに支給している食事手当を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者であるYには支給していない。

(3)問題となる例

A社においては、通常の労働者であるXには、有期雇用労働者であるYに比べ、食事手当を高く支給している。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
1 あり
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等
なし
3 1と同様
  • 従業員の食事に係る補助として、勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給する手当
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等とは無関係
20 1と同様
  • 従業員の食事に係る補助として、勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給する手当
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等とは無関係
3 実務上の対応

勤務時間中に食事を取ることの必要性等は職務の内容とも直接関係しないと思われます。

勤務時間内に食事のための休憩時間がある勤務時間制の場合、正社員と短期・有期社員ともに同一の食事手当を支給することが無難といえます。

なお、裁判例1、3、20は、ハマキョウレックス事件の第1審から第3審になりますが、1審と2審以降では判断理由が正反対であることも注目に値します。同一労働同一賃金ガイドラインが公表される前とはいえ、裁判所の判断の予測可能性が立ち辛いことの一例といえます。

12 単身赴任手当

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、 通常の労働者と同一の単身赴任手当を支給しなければならない。

2 裁判例

該当なし

3 実務上の対応

実際に単身赴任を行う労働者に対して支給される単身赴任手当については、正規従業員・非正規従業員間で差異を設ける根拠が見出し難く、仮に非正規従業員が単身赴任を行うことになったにもかかわらず、正規従業員とは異なる待遇とした場合には、不合理であると判断される可能性が高い

13 地域手当

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

通常の労働者と同一の地域で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の地域手当を支給しなければならない。

(2)問題とならない例

A社においては、通常の労働者であるXについては、全国一律の基本給の体系を適用し、転勤があることから、地域の物価等を勘案した地域手当を支給しているが、一方で、有期雇用労働者であるYと短時間労働者であるZについては、それぞれの地域で採用し、それぞれの地域で基本給を設定しており、その中で地域の物価が基本給に盛り込まれているため、地域手当を支給していない。

(3)問題となる例

A社においては、通常の労働者であるXと有期雇用労働者であるYにはいずれも全国一律の基本給の体系を適用しており、かつ、いずれも転勤があるにもかかわらず、Yには地域手当を支給していない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
18 あり 【物価手当】

  • 物価手当は、年齢に応じて増大する生活費を補助する趣旨を含む
  • 無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難
  • 年齢上昇に応じた生活費の増大は有期契約労働者であっても無期契約労働者であっても変わりはない
なし
3 実務上の対応

労働者の勤務地ごとに物価等を勘案した地域手当を支給している企業では、正社員と短期・有期社員との間で待遇差を設けることは合理性がないと判断されやすいと思われます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、地域の物価等を勘案して支給される金銭の名目は、必ずしも正社員と短期・有期社員で同一である必要はないといえます。例えば、正社員に支給される地域手当が短期・有期社員には支給されないとしても、短期・有期社員の基本給が地域の物価等を勘案して設定されていることが客観的な資料をもって具体的に説明できるのであれば、そのような取り扱いは違法とはならないものと考えられます。

福利厚生

14 福利厚生施設

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の事業所で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の福利厚生施設の利用を認めなければならない。

2 裁判例

該当なし

3 実務上の対応

ガイドラインでは、福利厚生施設とは、「給食施設、休憩室及び更衣室」をいうと定義されています。

またパート・有期法12条では、給食施設・休憩室・ 更衣室については、比較対象労働者に利用の機会を与える場合には、取組対象労働者にも利用の機会を与えることが義務づけられています。

もっとも、平成31年1月30日付「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」と題する通達では、「ただし、短時間・有期雇用労働者の従事する業務には更衣室が必要でなく、当該業務に従事している通常の労働者も同様の実態にある場合には、他の業務に従事している通常の労働者が更衣室を利用しているからといって当該短時間・有期雇用労働者に更衣室の利用の機会を与える必要はないことが通常であること」と明示されています。

したがって、「通常の労働者」のうち、同一の業務に従事している者との対比で考える必要があることに留意する必要があります。

15 転勤者用社宅

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならない。

2 裁判例

該当なし

3 実務上の対応

(1)3つの分類

社宅は、その内容に応じて、①従業員の福利厚生、②転勤者に対する補助、③住宅供給が少ない地域または物価水準が高い地域に勤務する従業員に対する補助等に分類することができます。

  • ① 従業員の福利厚生
    「14 福利厚生施設」の考え方が妥当します。
  • ②転勤者に対する補助
    短期・有期社員の「職務の内容および配置の変更の範囲」に応じて検討する必要があるといえます。
    短期・有期社員には勤務地の異動を伴う配置転換が予定されていない場合、社宅の利用を認めないことも合理的であると考えられます。
    一方、短期・有期社員でも正社員と同様の配置転換が予定されている場合、短期・有期社員を社宅の対象外とすることは不合理な待遇差と考えられるおそれがあります。
  • ③ 住宅供給
    「13 地域手当」の考え方が妥当します。

16 有給の保障

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。

(2)問題とならない事例

A社においては、通常の労働者であるXと同様の出勤日が設定されている短時間労働者であるYに対しては、通常の労働者と同様に慶弔休暇を付与しているが、週2日の勤務の短時間労働者であるZに対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している。

2 裁判例

該当なし

3 実務上の対応

「18 法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇」の考え方が妥当します。

17 病気休職

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければならない。また、有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければならない。

(2)問題とならない例

A社においては、労働契約の期間が1年である有期雇用労働者であるXについて、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとしている。

2 裁判例
番号 差異の内容 判断理由 適否
8 有給
  • 職務内容における役割の違いや責任の軽重、職務内容の変更や人事異動の有無等において異なる
  • 正社員は長期的な雇用の確保を図る必要がある
無給
9 有給
  • 病気休暇は労働者の健康保護のための制度
無給
11 有給 長期就労に対する評価や今後の長期就労に対する期待から生活保障をするアルバイトは長期雇用が想定されておらず、就労実態が異なる
無給
26 9と同様 時間契約社員のみを無給とすることは不合理
29 有給 契約期間を通算した期間が長期間に及んだ場合、相違を設ける根拠は薄弱契約期間を通算した期間が5年を超えた以降も相違を設けることは不合理
無給
30 11と同様 長期就労に対する評価や今後の長期就労に対する期待から生活保障をする趣旨ただし、アルバイトでも契約更新で一定期間の継続した就労をなし得るアルバイトといっても一概に代替性が高いとはいえない保証が一切ないことは不合理
3 実務上の対応

病気休職は、解雇を猶予して健康回復を促し、職務能率の維持向上を図るための制度になります。

病気休職の制度趣旨は、正社員だけでなく短期・有期社員にも妥当するため、短期・有期社員に対して一律に休職制度の対象外とすることは認められない可能性が高いといえます。

実務上、正社員に対して休職制度を設けている場合、短期・有期社員にも一定の休職制度を設けることが無難といえます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、解雇猶予措置としての性質や今後の就労可能性に対する期待という観点から、勤続期間の長さに応じた休職期間の差異を設けることは認められ得ると考えられます。

18 法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇

1 ガイドラインの考え方

(1)考え方

法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)であって、勤続期間に応じて取得を認めているものについて、通常の労働者と同一の勤続期間である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)を付与しなければならない。なお、期間の定めのある労働契約を更新している場合には、当初の労働契約の開始時から通算して勤続期間を評価することを要する。

(2)問題とならない事例

A社においては、長期勤続者を対象とするリフレッシュ休暇について、業務に従事した時間全体を通じた貢献に対する報償という趣旨で付与していることから、通常の労働者であるXに対しては、勤続10年で3日、20年で5日、30年で7日の休暇を付与しており、短時間労働者であるYに対しては、所定労働時間に比例した日数を付与している。

2 裁判例
番号 内容 判断理由 適否
7 あり 長期間雇用を前提とする正社員に対する定年まで長期にわたり会社に貢献することへのインセンティブ
なし
9 あり 最繁忙期が年末年始の時期であることには差異がない夏季冬季休暇を全く付与しないことは不合理
なし
11 あり アルバイトは夏季を含まない雇用期間も想定される正社員は夏季特別有給休暇を付与して心身のリフレッシュを図る必要性がある
なし
19 7と同様 長期貢献のインセンティブを与えるという面を考えても、同時期に就労している正社員と時給契約社員との間に休暇の相違を設けることについて、職務内容等の違いから説明できない正社員に比して一定割合の日数を付与するという方法も考えられる
26 9と同様 夏期や年末年始の繁忙期に差異があるとは認められない
29 あり 一般の国家公務員と同様に心身の健康の維持、増進等を図るための特別の体暇契約期間を通算した期間が5年を超えた以降も相違を設けることは不合理
なし
30 11と同様 夏期特別有給休暇の趣旨は、その時期に職務に従事することは体力 的に負担が大きく、心身のリフレッシュを図らせることにあるアルバイトでも、夏期に相当程度の疲労を感ずることは想像に難くない
3 実務上の対応

(1)傾向

法定外休暇については、正社員と短期・有期社員との間の相違は認められにくい傾向にあります。

(2)4つの分類

法定外休暇の制度は、①勤続に対する報償、②就労に対する心身の疲労回復、③人事異動に対する心身の疲労回復、④私生活上の事由に対する援助、に分類することができます。

  • ① 勤続に対する報償
    有為の人材の獲得・定着を図る目的の下で、長期雇用が予定されている正社員に限って付与することも合理的であると考えられます。
    もっとも、休暇の付与条件(一定の勤続年数)を満たす短期・有期社員が存在する場合、当該短期・有期社員にも適用範囲を拡大することを検討したほうが無難といえます。
  • ② 就労に対する心身の疲労回復
    短期・有期社員も就労を行っている以上、疲労回復の要請は同様に当てはまることから、短期・有期社員を一律に対象外とすることは認められ難いと考えられます。
    もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、就労の程度はフルタイム勤務を行う正社員と短期・有期社員では異なり得るため、所定労働時間に比例した付与日数の設定は許容されると考えられます。
  • ③ 人事異動に対する心身の疲労回復
    短期・有期社員の「職務の内容および配置の変更の範囲」に応じて検討する必要があります。
    短期・有期社員には勤務地の異動を伴う配置転換が予定されていない場合、勤務地の異動を付与事由とする休暇を認めないことも合理的であるといい得ますが、短期・有期社員にも同様の配置転換が予定されている場合、短期・有期社員を当該休暇の対象外とすることは合理的とは言い難いと考えられます。
  • ④ 私生活上の事由に対する援助
    短期・有期社員であっても私生活上の事由に基づく就労免除の要請は異ならないと考えられることから、正社員と同等の制度を設ける必要があると考えられます。

その他

19 教育訓練

1 ガイドラインの考え方

教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するものについて、通常の労働者と職務の内容が同一である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の教育訓練を実施しなければならない。また、職務の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた教育訓練を実施しなければならない。

2 裁判例

該当なし

3 実務上の対応

同一労働同一賃金ガイドラインでも、「問題となる例」「問題とならない例」の公表がない上、裁判例でも類例が見当たりません。

同一労働同一賃金ガイドラインの考え方に照らせば、正社員と短期・有期社員の職務内容等が同一である場合、教育訓練の内容に相違を設けることは難しいと思われます。

20 安全管理に関する措置及び給付

1 ガイドラインの考え方

通常の労働者と同一の業務環境に置かれている短時間・有期雇用労働には、通常の労働者と同一の安全管理に関する措置及び給付をしなければならない。

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
11 あり
  • 附属病院の医療費補助措置の対象者は必ずしも雇用契約の当事者のみというわけではなく、被告の理事や評議員、職員の家族、大学院生、学部生等広範な者が対象となっていること、医療費補助規程及び医療費補助規程内規においては、職員の範囲を具体的に定めていないものの、被告は、アルバイト職員について、これらの規程に定める職員には含まれないものであるとして運用していること、同制度は、附属病院を受診した場合に限られること
  • 医療費補助制度は、労働条件として発展してきたものではない。
  • 医療費補助制度は、被告と一定の関わりを有する者が受診することによって、上記目的に一定程度の貢献をすることに対する謝礼としての側面や病院運営を事業とする者にとって想定し得る関係者等に対する社会儀礼上のものという側面も有するものと解される。
  • 以上のような被告における医療費補助制度の性質等に鑑みれば、そもそも同制度の適用それ自体は、飽くまでも恩恵的な措置というべきであって、雇用契約それ自体から当然に認められるものであるとまでは認め難く、また、仮に労働条件に含まれているとしても、上記した制度趣旨等に照らすと、その適用範囲等の決定については、被告(規程上は、理事会ないし理事長となっている。)に広範な裁量が認められるものであると解するのが相当である。そして、アルバイト職員の職務内容等からすると、被告が、アルバイト職員に対して同補助制度を適用しないという運用(医療費補助規程内規上の「職員」に含まれないという運用)が、被告の裁量権を逸脱又は濫用しているとまでは認められない
なし
30 あり
  • 医療費控除は恩恵的な措置であるため、不合理ではない
なし
3 実務上の対応

同一労働同一賃金ガイドラインと、裁判例の考え方は必ずしも整合していないと思われます。

裁判例では、医療費補助制度は、使用者による恩恵的な措置であること、労働条件に必ずしも含まれないとされています。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの考え方を優先すれば、正社員と短期・有期社員との間で相違を設けることはリスクがあるため、できれば差異は設けないようにすべきでしょう。

ガイドラインなし

21 退職手当

1 ガイドラインの考え方

提示なし

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
1 あり
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等
なし
5 あり
  • 長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くして有意の人材の獲得・定着を図る目的は合理的
  • 職務内容、職務内容・配置の変更範囲に大きな相違
  • 契約社員Bと正社員の地位は必ずしも固定的ではない
なし
31 5と同様
  • 有意の人材の獲得・定着を図る目的は一概に不合理とはいえない
  • 契約社員は賃金の後払いが予定されているということはできない
  • もっとも、長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金すら支給されていないことについては、不合理
  • 少なくとも正社員と同一の基準の退職金4分の1は、長年の勤務に対する功労報償
3 実務上の対応

裁判例【31】(メトロコマース事件控訴審判決)は、実務に大きな衝撃を与えたといえます。現時点では、退職金について、裁判例から明確な基準を見出すことは困難であり、紛争に発展した場合の予測可能性は低いと言わざるを得ません。ただし、退職金制度も不合理な相違といわれるリスクがあることは念頭に置き、正社員と短期・有期社員の人事政策を検討すべきといえます。

22 住宅手当

1 ガイドラインの考え方

提示なし

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
1 あり
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等
なし
3 1と同様
  • 契約社員は就業場所の変更が予定されていない
  • 正社員は、転居を伴う配転が予定されており、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る
5 あり
  • 正社員は、転居を伴う配置転換・出向が予定されており、住宅コストの増大が見込まれる
  • 長期雇用を前提とした配置転換のある正社員の住宅費用の補助を優遇することで、有意な人材の獲得・定着を図る目的は合理性がある
  • 営業所が都内にしかなくとも転居を伴うことは想定しうる
なし
9 あり
  • 新人事制度:住居費の負担軽減により正社員の福利厚生を図り、長期的な勤務をする動機づけをする →時給契約社員に対して住居手当が全く支払われない点では不合理
  • 旧人事制度:配置転換が予定されていない時給契約社員と比較して、住宅に係る費用負担が重いことを考慮し、旧一般職に対して住居手当を支給することは合理性がある。長期雇用を前提とした配置転換等のある旧一般職に対して住宅費の援助をすることで有為な人材の獲 得、定着を図ることも相応の合理性が認められる
新人事制度:✕旧人事制度:◯
なし
14 あり
  • 新人事制度:住居費の負担軽減により正社員の福利厚生を図り、長期的な勤務をする動機づけをする →時給契約社員に対して住居手当が全く支払われない点では不合理
  • 旧人事制度:配置転換が予定されていない時給契約社員と比較して、住宅に係る費用負担が重いことを考慮し、旧一般職に対して住居手当を支給することは合理性がある。長期雇用を前提とした配置転換等のある旧一般職に対して住宅費の 援助をすることで有為な人材の獲 得、定着を図ることも相応の合理性が認められる
新人事制度:✕旧人事制度:◯
なし
17 あり
  • 有期雇用労働者であっても住宅費用を負担することに変わりはない
  • 無期雇用労働者を含む被告の労働者は勤務地変更を伴う異動は想定されていないため、無期雇用労働者のほうが潜在的に住宅費用が高くなると認めることは困難
なし
20 1と同様
  • 契約社員は就業場所の変更が予定されていない
  • 正社員は、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る
26 9と同様
  • 新人事制度:新一般職は、転居を伴う配置転換等が予定されておらず、新一般職も時給契約社員も住宅に要する費用は同程度。長期的な勤務に対する動機づけの効果及び有意な人材を正社員に採用しやすくする狙いだけでは正当化できない
  • 旧人事制度:旧一般職は、転居を伴う可能性のある配置転換が予定されていたため、旧一般職は時給契約社員と比較して住居に要する費用が高額になりうる
新人事制度:✕旧人事制度:◯
31 5と同様
  • 住宅費を中心とした生活費を保障する趣旨
  • 正社員であっても、朝必然的に伴う配置転換は想定されていない
  • 有意な人材の確保と定着を図る趣旨があると主張するがそれだけでは正当化できない
3 実務上の対応

長期的な勤務の動機づけや有意な人材の確保という理由だけでは、正社員と短期・有期社員の待遇差を正当化する合理性があるとは言い難いでしょう。

正社員には転居を伴う配転の可能性がある一方、短期・有期社員にはそのような可能性がない場合、住宅手当の支給の有無等について差異を設けることは不合理ではないと判断される可能性が高いといえます。

23 家族手当

1 ガイドラインの考え方

提示なし

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
1 あり
  • 職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等
なし
14 あり
  • 生活保障給としての性質
  • 扶養手当は、職務の内容等の相違によってその支給の必要性の程度が大きく左右されるものではない
  • 扶養手当と同趣旨の手当等は本件契約社員には全く支給されていない上、基本給においてもこのような趣旨は含まれていない
なし
17 あり
  • 家族手当は生活補助的な性質を有しており、労働者の職務内容等とは無関係に支給されている
  • 配偶者および扶養家族がいることにより生活費が増加することは、有期雇用労働者も変わりがない
なし
29 14と同様
  • 1審被告の扶養手当は、長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質、趣旨を有する
  • 本件契約社員は、原則として短期雇用を前提とし、必要に応じて柔軟に労働力を補充、確保するために雇用されたものであるなど、長期雇用を前提とする基本給の補完といった扶養手当の性質および支給の趣旨に沿わない
  • 本件契約社員についても家族構成や生活状況の変化によって生活費の負担増もあり得るが、基本的には転職等による収入増加で対応することが想定されている
3 実務上の対応

家族手当は、家族を扶養する労働者等の生活を補助する目的で支給される手当と考えられます。

家族手当は、労働者の職務内容等とは無関係に支給される上、正社員か短期・有期社員かによって労働者の生活を補助する必要性が変わるものではないと考えられます。

したがって、正社員と短期・有期社員ともに同一の支給条件で家族手当を支給することが無難と考えられます。

24 調整手当

1 ガイドラインの考え方

提示なし

2 裁判例
番号 差異 判断理由 適否
16 あり
  • 本件労働条件の相違は基本給、調整手当及び基本賞与の額が定年退職時の水準の約6割に減じられるというものであって、その程度は小さいとはいえない
  • 本件学校における賃金体系は基本給の一部に年齢給が含まれるなど年功的要素が強い
  • このような賃金体系の下では定年直前の賃金が当該労働者のその当時の貢献に比して高い水準となることは公知の事実
  • 定年退職を迎えて一旦このような無期労働契約が解消された後に新たに締結された労働契約における賃金が定年退職直前の賃金と比較して低額となることは当該労働者の貢献と賃金との均衡という観点からは見やすい道理であり、それ自体が不合理であるということはできない
なし
37 あり
  • 給料の調整給
  • 専任教諭は、長期間の雇用が制度上予定されている上、管理職を含めた各役職の大部分に就いて重い職責を負っており、重要な業務を担っていたのに対し、常勤講師は、長期間の雇用が制度上予定されていなかっただけでなく、管理職を含めた各役職の職責を恒常的に担うことも予定されておらず、重要業務のうち担当しないものもあることが認められ、無期契約労働者である専任教諭と有期契約労働者である常勤講師のそれぞれについて基本給をどのように設定するかにおいて考慮すべき各事情に相当な差異がある
  • 専任教諭と常勤講師との調整手当の差額が基本給の3パーセントにとどまる
なし
3 実務上の対応

調整手当は、各企業によってその性質は様々ですが、裁判例では、給料の調整給という位置付けとされています。

そして、給料の調整給という位置付けでも基本給に準じて正社員と短期・有期社員との待遇差が検討される傾向にあります。

したがって、調整手当における待遇差については、基本給の考え方に照らして検討することになると考えられます。

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