労働紛争が生じた場合の解決手続は複数ありますが、大きく分類すれば、①裁判外手続と②裁判手続に整理することができます。
そして、①裁判外手続には、任意交渉、会社内機関の利用、労働組合の利用、行政機関の利用等の方法が考えられます。
一方、②裁判手続には、保全処分、労働審判、訴訟等の方法が考えられます。
各手続には、それぞれメリット・デメリットがあります。各手続のメリット・デメリットを勘案した上で、個別の労働紛争に応じた最適な解決方法を選択していく必要があります。
以下では、裁判外手続と裁判手続における各手続のメリット・デメリットについてご説明します。
INDEX
裁判外手続
裁判手続
裁判外手続①−任意交渉
任意交渉とは
労働紛争が発生した場合(または発生するおそれがある場合)、まず検討する方法として、労働者個人による任意交渉が考えられます。
任意交渉といっても、交渉内容によって交渉方法は様々なものが考えられます。
例えば、出向命令や配転命令などの人事処分を争う場合もあれば、会社内での人間関係の改善を求めたりする場合もあります。
前者のように、労働者と会社(使用者)の対立関係が問題となる場合には、会社に対し、人事処分の見直しを求めたり、処分の正当性がないことを強く争ったりする姿勢で交渉する必要があります。
一方、後者のように、労働者同士の関係が問題となる場合には、会社に対し、仲裁者として介入してもらうことを求めることが考えられます。
会社と対立関係になるような場合には、会社との交渉過程を記録化していくことを意識した交渉方法を選択することもあります(例えば、会社からの指示や処分内容をできる限り書面やメール等、記録に残る方法で提出するよう求めることなどです)。
任意交渉によるメリット
任意交渉による解決を図るメリットは、交渉内容によって、どのような方法をとるかを柔軟に選択できることにあります。
会社と対立関係になるような問題であっても、労働者は退職することまでは考えていないのであれば、ある程度の交渉内容で譲歩することも選択することができます。
また、任意交渉では経済的コストがかからないというメリットもあります。
任意交渉によるデメリット
一方、任意交渉による解決のデメリットは、あくまでも任意交渉にすぎませんので、抜本的な解決を図ることは困難であり、場合によっては何も解決することができないこともありえます。
裁判外手続②−会社内機関の利用
会社内機関の利用とは
会社の規模や組織体制にもよりますが、会社内において紛争調整機関を設置していることがあります。
例えば、セクハラやパワハラ等のハラスメント対策委員会等が挙げられます。
任意交渉では解決を図ることができない場合、会社内機関を利用することで、社内機関で労働紛争の事実調査を行ったりして、紛争の解決を図ることができることもあります。
会社内機関の利用のメリット
会社内機関を利用するメリットは、経済的コストをかけることなく、任意交渉よりも解決を期待できることにあります。
会社内機関の利用のデメリット
一方、会社内機関を利用するデメリットは、会社としても労働紛争を大きくは発展させたくないことが通常であるため、適当に丸め込まれてしまったりして紛争の解決を図ることができなかったり、会社内機関を通じて相談した労働者に不利な噂が社内に流されてしまい、かえって社内での立場が危うくなってしまうおそれもあったりすることが挙げられます。
会社内機関を利用する場合には、事前に社内のどのような立場の者が構成員になっているかどうかなどを検討するべきといえます。
裁判外手続③−労働組合の利用
労働組合の利用
会社内機関のほかに、会社内の労働組合に相談するという方法も考えられます。
労働組合のメリット
労働組合を利用するメリットは、個人での対応と比べて、組合による集団の力を用いた交渉を行うことができるために、より強い力で交渉を進めることが期待できる点にあります。
労働組合のデメリット
一方、労働組合を利用するデメリットは、労働組合の性格によっては、大して役に立たないこともあるという点です。
例えば、会社の言いなりになっている、いわゆる御用組合の場合には、会社と対立している事項について相談しても、何も動いてくれないということもあり得ます。
裁判外手続④−行政機関の利用
行政機関の利用
任意交渉や会社内機関の利用、労働組合の利用は、いずれも会社内での対応になります。
会社内での対応ではうまくいかない場合、会社外の行政機関の利用が考えられます。
例えば、労働基準法に違反する事項(賃金未払や一方的な解雇)に関する労働紛争であれば、労働基準監督署に相談することで、是正勧告等の行政指導を出してもらうことが期待できます。
行政機関のメリット
行政機関を利用するメリットは、第三者機関であり、かつ行政機関からの行政指導等を行なってもらうことで、会社(使用者)側に対し、労働紛争を解決させるための強い働きかけが可能になるという点にあります。
行政機関のデメリット
一方、行政機関を利用するデメリットは、会社側が行政指導等に従わない場合、直ちに強制力を伴った手段まで実施できるわけではなく、労働紛争の解決力には限界がある点が挙げられます。
また、行政機関を利用した場合、労働紛争は会社内で留まらない上、行政指導等も入れば会社側と労働者側の対立関係はより強くなるため、労働者の会社内での立場も危うくなってしまうという点が挙げられます。
裁判手続①−保全処分
保全処分とは
保全処分とは、民事訴訟の本案の権利を保全するための仮差押及び本案の権利関係について仮の地位を定める仮処分をいいます。
保全処分は、正式な裁判の結論が出るまでに時間を要するために不利益が生じる可能性がある場合に、権利等を保全するために仮の決定を下す手続です。
通常の裁判では、仮の地位を定める仮処分を利用することはあまりありませんが、労働紛争では、配置転換命令の無効や解雇無効を争う場合、労働者の地位を確認するために、仮の地位を定める仮処分を利用することがあります。
保全処分のメリット
保全処分のメリットは、権利関係を保全することができるとともに、通常の裁判よりも迅速な判断を下すことが期待できるという点にあります。そして、保全処分の結果、相手方と早期に和解が成立し、終局的な解決に至ることも期待できます。
保全処分のデメリット
一方、保全処分のデメリットは、通常の裁判と異なり、あくまでも仮の権利関係を定めるにすぎないため、終局的な解決ができるわけではないことが挙げられます。
また、保全処分の申し立てによっては、担保金を提供することが要求されることがあり、通常の訴訟以上に申立人の経済的負担がかかることがあります。
さらに、保全処分の申立にあたっては、保全の必要性という要件を満たす必要があり、必要性の要件を欠くと判断された場合には保全処分が否定されることがあります。
裁判手続②−労働審判
労働審判とは
労働審判とは、最近の個別的労働関係に関する紛争の増加傾向に対処するために、迅速かつ適切に解決を図ることを目的に制定された手続です。労働審判は、原則として3回以内の期日で、調停(話し合い)による解決が試みられます。調停による解決ができない場合には、労働審判委員会が労働審判を行い、解決を図ります。
労働審判のメリット
労働審判のメリットは、労働紛争の迅速な解決を図ることを目的とした制度ですから、早期の解決が期待できる点にあります。
労働審判のデメリット
一方、労働審判のデメリットは、早期の解決が期待される反面、労働者側の主張がすべて認められず、譲歩を迫られることが挙げられます。
例えば、未払賃金請求の案件では、労働者の請求する金額の満額が認められず、譲歩を迫られることも珍しくありません。
さらに、労働審判は、あくまでも当事者間の合意がなければ成立しないため、終局的な解決には至らないこともあります。
なお、労働審判の手続の特徴等をより詳しく確認する場合には、「労働審判」の項をご参照ください。
裁判手続③−訴訟
訴訟とは
訴訟とは、紛争について裁判所に判決を求める手続をいいます。
訴訟のメリット
訴訟のメリットは、当事者間の合意にかかわらず裁判所による判断によって終局的な解決を得ることができるという点にあります。
この終局的な解決を得ることができるという点は、他の労働紛争の解決手続にはないメリットであり、この点にこそ訴訟を利用する意義があるといえます。
訴訟のデメリット
一方、訴訟のデメリットは、終局的な解決を得るまでに長時間を要する傾向にある上、当事者本人で遂行することは困難であり、弁護士に依頼することが一般的であるため、弁護士費用等を含めた訴訟活動に伴う経済的負担も大きいという点が挙げられます。
また、訴訟にまで発展した場合、労働者と使用者の対立も相当大きくなることが一般的であるため、今後も労働者が会社に勤務することへの影響が懸念される点も挙げられます。