試用期間の労働者の対応について

相談内容

当社は正社員として従業員を採用しました。もっとも、本当に当社の仕事を続けることができるかどうかを見極めたいと思いますので、試用期間を設定しようと思います。

  • 試用期間の長さに制限はあるのでしょうか。
  • 試用期間中に仕事を続けることが難しいと思った場合、本採用の拒否をすることに問題はありますか。
  • 場合によっては、試用期間の延長も検討していますが、試用期間を延長することに問題はあるでしょうか。

回答

  • 試用期間の制限は法律上ありませんが、あまりにも長過ぎることは問題です。
  • 試用期間満了時の本採用拒否は、解雇権濫用法理が適用されるため、簡単に行うことはできません。
  • 試用期間の延長をするためには、就業規則の根拠が必要ですが、何度も延長を重ねることは問題があります。

試用期間とは

試用期間の目的は、試用期間中の研修等を通じて適性を評価し、①本採用をするかどうかを判断する、②配属先を決定する、といったことが考えられます。

そして、試用期間の法的性質について、解約権留保付労働契約と解されています。試用期間中であっても、会社は賃金支払義務を負う一方、社員は労務提供義務を負うことになります。

もっとも、試用期間中は、会社には解約権が与えられていることになります。この点が通常の労働契約と異なるところです。

但し、会社側に解約権が与えられているとはいえ、会社側が解約権の行使を無制限に認められているわけではありません。会社側の解約権の行使には、解雇権濫用の法理が適用されることに注意が必要です。

試用期間の長さ

このように、試用期間中は通常の労働契約と異なり、会社側には解約権が与えられていることから、社員の立場は一般の正社員よりも不安定と言えます。

したがって、試用期間をあまりにも長く設定すると社員には不利であることから、非常に長期の試用期間は無効と評価されることもあります。

それでは、どの程度の試用期間の長さであれば妥当なのでしょうか。

この点、試用期間をどこまで長くできるかという点について、明確な基準はありません。試用期間の目的等に照らして合理的かどうか、事案ごとに判断することになります。一般的には、3〜6ヶ月程度が多いといえます。 

本採用拒否の法的性質

前記のとおり、試用期間は、解約権留保付労働契約と解されます。

労働契約を解約する場合、解雇権濫用法理が適用されます(労働契約法16条)。

したがって、正社員として採用しない場合(本採用を拒否する場合)、解雇する合理的な理由が必要になります。

そして、試用期間付労働契約における解雇の有効性については、①試用期間満了後の本採用拒否による解雇と、②試用期間中の解雇、の2つの場合に分けて検討することになります。

① 試用期間満了後の本採用拒否による解雇

(1)三菱樹脂事件(最判昭和48年12月12日)

本採用拒否による労働者の解雇の可否については、三菱樹脂事件(資料2・最高裁昭和48年12月12日)が以下のように判示しています。

「留保解約権の行使は、…客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」

「換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」

したがって、本採用拒否により労働者を解雇するためには、解雇する客観的合理的な理由があり、解雇することが社会通念上相当である必要があります。

(2)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の事由が認められた場合にも本採用拒否が有効となります。

解雇権濫用法理が適用される普通解雇においては、判例上は、主として①著しい労働能力・適格性の欠如等があるか、②改善、向上の見込みがないといえるかを、諸般の事情を考慮した上で検討して、権利の濫用に当たるか否かを判断されています。

(3)ライトスタッフ事件(東京地判平成24年8月23日)

ライトスタッフ事件という裁判例でも留保解約権の行使について以下のように説明しています。

解約権の留保は、採用決定の当初において当該労働者の資質・性格・能力などの適格性の有無に関連する事項につき資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされているものと解されるが、ただ、その一方で、当該試用労働者は既に労働契約関係に組み込まれている以上、留保解約権の行使には解雇権濫用法理(労契法16条)の基本的な枠組が妥当するものというべきである。
 そうだとすると留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解するのが相当である……

また、「客観的に合理的な理由」については、

本件解約理由③は、被告就業規則61条4号に該当する。
……以上によれば、本件解約権行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らし客観的に合理的な理由があるものと認められ……

と判断しています。

すなわち、本裁判例では、就業規則の解雇事由に該当することにより、客観的合理的理由があると判断されています。

次に、「社会通念上相当として是認され得る場合」の判断基準については、

本件解約権の行使は「解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認される」かであるが、この適法要件Bの有無は、解約権の留保の趣旨・目的に照らしつつ、①解約理由が重大なレベルに達しているか、②他に解約を回避する手段があるか、そして③労働者の側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮することにより決すべきものと解される。

と判示されています。

すなわち、本裁判例において社会通念上相当として是認され得る場合の判断基準は、①解約理由が重大なレベルに達しているか、②他に解約を回避する手段があるか、そして③労働者の側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮することにより判断されています。

(4)小括

以上より、本採用拒否による解雇の有効性は、①解雇事由が記載された就業規則に該当する等の客観的合理的理由があり、②ⅰ解約理由が重大なレベルに達しているか、ⅱ他に解約を回避する手段があるか、ⅲ労働者の側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮すること等により社会通念上相当といえるか否かによって判断される可能性があります。

② 試用期間中(試用期間満了前)の解雇

一方、試用期間満了前の解雇については、労働者の適性の有無は、原則として試用期間中の全期間を見た上で判断されるべきであるから、試用期間満了前の解雇は、通常は客観的合理性・社会通念上の相当性を肯定し難いと解されます。

試用期間中に解雇したことが無効であると判断された裁判例を整理すると以下のようになります。

裁判例

考慮された要素

大阪地裁

H16.3.11

  • 未経験者として採用されているのであるから、使用者は十分な指導をして習熟度をあげるべき
  • 労働者の作業にミスはあったものの従業員としての適格性を欠くほどの理由にはならない
  • 3ヶ月の試用期間を設けながら3週間で解雇する合理的理由がない

東京地裁

H21.1.30

  • 労働者は即戦力(営業)として中途採用された
  • 労働者の成績が今後改善される見込みがないという使用者の判断は是認できない
  • 6ヶ月の試用期間を設けていながら3ヶ月で解雇の判断をした理由が明らかでない
  • わずか3ヶ月の営業成績を他の社員と比較しただけで適格性がないとは判断できない

福岡地裁

H25.9.19

  • 使用者は、実績のない初心者の社労士という認識で雇用した
  • 労働者の仕事に特別不満を述べていない
  • 解雇の原因となったミスについてそれまで注意などの指導をしていなかった
  • 労使間でコミュニケーションは不足していたが、総合考慮すると解雇を正当化する理由ではない

東京地裁

H27.1.28

  • 設計の専門家として雇用
  • 使用者は、労働者の設計の専門家としての経験が不足していると認識できる
  • 設計図の作成を指示しながら具体的な指導は何もしていない

裁判例では、未経験者について能力不足による解雇、結果が不出来だったことのみを理由とする解雇、必要な指導を行わないまま適性がないとして解雇する等が全て無効となっています。

したがって、試用期間中の解雇(試用期間満了前の解雇)は、本採用拒否と比較して、客観的合理性・社会通念上の相当性を肯定し難い傾向にあるといえます。

試用期間の延長の可否

また、試用期間の延長の有効性についても、試用期間の長期化と同様の問題があることから、やはり慎重に判断されます。

試用期間の長さや延長の問題は、社員の能力や適性を見極めるのに相当かどうか、という点が重要と言えます。

試用期間を設定する際には、この観点から検討するようにしてください。

試用期間の判断に迷った際には、弁護士への相談をお勧めします

以上のとおり、正社員を採用する際には、試用期間を設定したとしても安心できるわけではありません。

試用期間を安易に都合よく考え、試用期間を非常に長く設定したり、延長を繰り返したりするほか、本採用拒否を行った結果、深刻な労働問題に発展するおそれがあります。

試用期間を効果的に運用するためにも、使用者側労働問題に特化した弁護士に相談することをお勧めします。

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