はじめに
飲食店や小売業、サービス業など多くの業種において、学生アルバイトは現場を支える不可欠な戦力となっています。若く活力ある労働力を確保することは、企業の事業継続において極めて重要です。しかし、学生アルバイトを単なる「調整弁」や「安価な労働力」として扱い、学業に支障をきたすような働かせ方をしてしまえば、いわゆる「ブラックバイト」として社会的批判を浴びるリスクがあります。
近年、SNSの普及により、不適切な労務管理は瞬く間に拡散され、企業のブランドイメージを大きく毀損します。一方で、学生ならではの事情(試験、部活、就職活動、帰省など)に配慮し、働きやすい環境を整備することは、人材の定着率(リテンション)を高め、優秀な人材を確保することに直結します。
本稿では、学生アルバイトを雇用する際に企業が留意すべき法的な就業ルール、学業への配慮の重要性、そしてトラブルになりがちなシフト管理や退職時の対応について、実務的な観点から解説します。
Q&A
Q1. 試験期間中に「2週間完全に休みたい」と申し出がありました。繁忙期なので困るのですが、出勤を強制することはできますか?
原則として、出勤を強制することはできません。あらかじめシフトが決まっていた場合でも、学生には学業という本分があるため、強要することはパワーハラスメントに該当する恐れがあります。また、年次有給休暇の要件を満たしている場合、休暇の取得は労働者の権利です。繁忙期であっても、代替要員の確保など企業側で調整を行い、学業を優先できるよう配慮することが、結果として長期的な雇用維持につながります。
Q2. 学生アルバイトが卒業や就職活動を理由に急に辞めたいと言ってきました。就業規則では「退職は1ヶ月前に申し出る」としていますが、引き止められますか?
期間の定めのない雇用契約(無期雇用)の場合、民法第627条により、退職の申し入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了します。就業規則で「1ヶ月前」と定めていても、法律が優先されるため、2週間前の申し出であれば法的に引き止めることは困難です。期間の定めのある契約(有期雇用)の場合は原則として期間中の退職はできませんが、「やむを得ない事由」がある場合は直ちに解除できます(民法第628条)。学業や就職活動は「やむを得ない事由」と判断される可能性が高いため、無理な引き止めは避け、業務の引き継ぎに協力してもらう方向で話し合うのが賢明です。
Q3. 突然連絡が取れなくなり、無断欠勤(バックレ)をする学生への対応はどうすればよいですか?
まずは本人および緊急連絡先(身元保証人など)へ連絡を取り、安否確認と出勤の意思確認を行います。それでも連絡がつかない場合、就業規則に基づき、一定期間(例:14日間)無断欠勤が続いた時点で自然退職(または解雇)とする手続きを進めます。感情的になって「損害賠償を請求する」といった威圧的な連絡をすることは避けてください。実際に損害賠償が認められるハードルは非常に高く、かえって企業の評判を落とすリスクがあります。
解説
1. 学生アルバイトの法的性質と「学業優先」の原則
まず前提として理解すべきは、「学生であっても、労働基準法上の『労働者』としての権利は一般の社員やパートタイマーと変わらない」ということです。
労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働関係法令は、学生アルバイトにも全面的に適用されます。
(1)学業への配慮は企業の責務
法律上、「学生の学業を優先させなければならない」という直接的な条文はありませんが、厚生労働省のガイドラインや通達では、学生アルバイトを使用する使用者に対し、学業との両立に配慮することを求めています。
もし、企業が学生に対して学業に支障が出るほどの長時間労働を強要したり、試験期間中の休みを認めずに留年や退学に追い込んだりした場合、それは安全配慮義務違反や不法行為(学習権の侵害等)として損害賠償請求の対象となる可能性があります。
(2)労働条件通知書の交付義務
学生アルバイトを採用する際も、必ず「労働条件通知書(または雇用契約書)」を交付しなければなりません(労働基準法第15条)。特に、契約期間、更新の有無、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、賃金、退職に関する事項は必須記載事項です。
シフト制の場合は、シフトの決定ルールや変更時の手続きについても明記しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
2. シフト管理の柔軟性とトラブル防止
学生アルバイトとのトラブルで最も多いのが、シフト(勤務日時)に関するものです。「シフト管理 柔軟性」は、学生がアルバイト先を選ぶ際の最重要キーワードの一つでもあります。
(1)シフトの強要禁止
「人手が足りないから出てほしい」と頼むこと自体は問題ありませんが、「出ないと辞めさせる」「罰金を科す」「ノルマを課す」といった威圧的な言動でシフトを強要することは許されません。これはパワーハラスメントに該当するだけでなく、刑法上の強要罪に問われるリスクすらあります。
(2)試験期間・帰省・就職活動への配慮
学生には、年間を通じて「働けない時期」や「働きにくい時期」が必ず訪れます。
- 試験期間: 中間・期末試験の時期(7月、1月など)
- 長期休暇: 夏休み・冬休みの帰省や旅行
- 就職活動: 大学3年生の冬〜4年生の夏頃
- 教育実習・留学: 特定の期間の長期欠勤
これらの時期に配慮せず、一律にシフト提出を求めると、学生は離職を選ばざるを得なくなります。
【対策】
- 採用面接時に、年間の学事日程(試験時期など)をヒアリングしておく。
- 試験期間中は「週0日」も許容する柔軟なルールを設ける。
- 早めにシフト希望を提出してもらい、不足分は短期アルバイトや派遣で補う体制を作る。
(3)6時間超の勤務と休憩
学生アルバイトの場合、放課後の数時間だけの勤務であれば問題ありませんが、土日や長期休暇中に長時間勤務をする場合は休憩時間に注意が必要です。
- 労働時間が6時間を超える場合:少なくとも45分の休憩
- 労働時間が8時間を超える場合:少なくとも1時間の休憩
これは法律上の義務です。「忙しいから休憩なしで」は違法となります。
3. 「辞め方マニュアル」の整備と退職トラブル対策
学生アルバイトは、卒業や就職という明確なゴールがあるため、人の入れ替わりが激しいのが特徴です。しかし、退職時のルールが曖昧だと、「突然来なくなる(バックレ)」「制服を返却しない」「引き継ぎをしない」といった問題が発生します。
(1)退職ルールの明確化と周知
就業規則や雇用契約書において、退職時の申し出期限(例:1ヶ月前まで)や手続きを定めておくことは基本です。しかし、学生は社会経験が乏しく、就業規則を読んでいないことも多々あります。
そこで有効なのが、入社時のオリエンテーションで「辞めるときのルール(辞め方マニュアル)」をわかりやすく伝えることです。
【辞め方マニュアルに盛り込むべき事項の例】
- 退職希望はいつまでに、誰に伝えるべきか(LINEだけでなく口頭や書面で)。
- シフトの最終日はどのように決めるか。
- 貸与品(制服、入館証、ロッカーの鍵など)の返却方法とクリーニングの要否。
- 最終給与の支払いや源泉徴収票の受け取り方法。
このように手順を明確化することで、学生側も「どうやって辞めればいいかわからない」という不安が解消され、無断欠勤によるフェードアウトを減らすことができます。
(2)卒業・就職に伴う退職の予測
高校3年生や大学4年生は、3月末で退職することが予見できます。年明けの1月、2月頃から退職予定者を確認し、次年度の採用計画を立てる必要があります。
「卒業ギリギリまで働いてほしい」と無理強いすると、最後の最後でトラブルになり、後輩学生への悪評につながることもあるため、余裕を持った退職日を設定することが望ましいでしょう。
(3)有給休暇の消化
学生アルバイトであっても、条件を満たせば年次有給休暇が発生します(6ヶ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤)。退職時に残っている有給休暇の消化を求められた場合、企業はこれを拒否できません。退職間際にまとめて請求されてシフトに穴が開かないよう、日常的に計画的な取得を促すことも一つの策です。
4. ハラスメント対策と職場の雰囲気作り
「最近の若者は根性がない」「学生の分際で」といった発言は、現代では完全にアウトです。職場の上司や先輩社員による心無い一言が、ハラスメントとして問題化するケースが増えています。
(1)学業軽視発言の禁止
「学校なんて行かなくていい」「単位なんてどうにかなる」といった、学業を軽視し労働を優先させるような発言は厳に慎むべきです。これらは「ブラックバイト」の典型的な徴候とみなされます。
(2)損害賠償請求の示唆の禁止
ミスをした学生や、急に辞めたいと言い出した学生に対して、「店に損害が出たから賠償請求する」「給料から引く」と脅すことは絶対に避けてください。労働基準法第16条(賠償予定の禁止)や第24条(賃金全額払いの原則)に抵触する違法行為となる可能性が高いです。
弁護士に相談するメリット
学生アルバイトの労務管理は、一見簡単そうに見えますが、実は法的リスクの塊です。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
- 実態に即した就業規則・雇用契約書の整備
学生アルバイト特有の事情(テスト期間、短期離職など)を考慮しつつ、法的要件を満たした就業規則や雇用契約書を作成します。特に「シフトに関する規定」や「SNS利用に関する規定」など、現代のリスクに対応した条項を盛り込むことが可能です。 - トラブル発生時の初期対応と解決
「無断欠勤が続く」「横領の疑いがある」「SNSに不適切な投稿をされた」など、重大なトラブルが発生した場合、弁護士が法的な観点から適切な初動対応をアドバイスします。誤った対応による炎上リスクや二次被害を防ぎます。 - マニュアル作成のサポート
「辞め方マニュアル」や「入社時オリエンテーション資料」など、現場で使える具体的なツールの作成をサポートします。法律用語を並べるだけでなく、学生に伝わる平易な言葉で、かつ法的に誤りのない内容に仕上げることができます。
まとめ
学生アルバイトを雇用することは、企業にとって労働力の確保というメリットがある反面、彼らの本分である「学業」を尊重し、社会人としての第一歩を預かるという責任を伴います。
「学生バイト 学業優先」のキーワードが示す通り、企業側が学生の立場を理解し、シフト管理に柔軟性を持たせ、試験期間等に配慮することは、結果として「働きやすい職場」としての評判を高め、優秀な人材が集まる好循環を生み出します。
また、退職時のトラブルを防ぐためには、入り口(契約時)だけでなく、出口(退職時)のルールもしっかりと整備し、マニュアル化しておくことが重要です。
「たかがアルバイト」と軽視せず、一人の労働者として適正に管理・育成していく姿勢が、企業のコンプライアンス体制を強化し、持続的な成長を支える基盤となります。
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