はじめに
建設業における工期末の追い込み、小売・サービス業の年末年始商戦、あるいは製造業における季節的な増産対応など、企業活動には必ず「繁忙期(ピーク)」が存在します。このような一時的な業務量の増大に対応するため、多くの企業が短期の有期雇用契約を活用してアルバイトや契約社員を採用しています。
しかし、「忙しい時期だけ手伝ってもらいたい」「落ち着いたら契約を終了したい」という企業側の意図とは裏腹に、契約期間満了時に従業員側から「契約を更新してもらえると思っていた」「突然辞めろと言われても困る」といった不満が生じ、深刻な労使トラブルに発展するケースが後を絶ちません。いわゆる「雇止め(やといどめ)」の問題です。
「短期契約だから期間が来れば自動的に終わる」という認識は、法的には必ずしも正しくありません。契約の結び方や更新の実態によっては、正社員の解雇と同様の厳しい規制(解雇権濫用法理の類推適用)を受けることになります。
本稿では、繁忙期における短期雇用の法的性質、雇止めトラブルを回避するための契約実務、そしてトラブル発生時の対応策について、経営者様や人事労務担当者様に向けて解説します。
Q&A
Q1. 年末年始の2ヶ月間限定でアルバイトを採用しました。契約書には「更新なし」と明記していませんが、口頭では伝えています。期間満了で終了しても問題ありませんか?
トラブルになるリスクが高い状態です。口頭での合意も契約としては成立しますが、言った言わないの水掛け論になりがちです。また、労働基準法およびパートタイム・有期雇用労働法では、雇入れ時に「契約の更新の有無」および「更新する場合の基準」を書面で明示することを義務付けています(労働基準法第15条、同施行規則第5条)。書面での明示がない場合、労働者が「更新されるもの」と期待してしまう可能性があり、雇止めが無効と判断されるリスクが生じます。速やかに契約書または労働条件通知書を作成し、事後的にでも署名をもらうなどの対応が望ましいでしょう。
Q2. 「今回だけ」という約束で更新を3回繰り返しました。次回の更新で最後にしたいのですが、気をつけることはありますか?
契約更新を繰り返している場合、労働者に「次も更新されるだろう」という合理的な期待(更新期待権)が生じている可能性があります。この場合、労働契約法第19条により、雇止めには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要となります。次回で終了したい場合は、今回の契約更新時に「次回契約期間満了をもって契約を終了し、以降は更新しない」旨の「不更新条項」を入れた合意書を取り交わすことが重要です。また、有期労働契約が通算して1年を超える場合などには、契約期間満了の30日前までに予告を行う努力義務(または基準による義務)がある点にも注意が必要です。
Q3. 繁忙期が終わったので、契約期間の途中ですが「来週から来なくていい」と伝えました。給与は働いた分だけでよいでしょうか?
原則として認められません。有期雇用契約において、期間の途中で契約を解除すること(期間途中解約)は、「やむを得ない事由」がない限り認められません(民法第628条)。この「やむを得ない事由」は、通常の解雇よりもさらに厳格に解釈されます。単に「繁忙期が終わった」「仕事が減った」という理由は、通常、会社側の都合(経営上のリスク)とみなされ、やむを得ない事由とは認められません。期間途中での解約強行は損害賠償請求の対象となり、残りの契約期間分の賃金相当額を支払わなければならない可能性があります。
解説
1. 短期雇用(有期労働契約)の法的リスク
「短期雇用」とは、法的には「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)」を指します。
企業側としては、必要な時期に必要な人数だけを確保できる便利な調整弁と考えがちですが、日本の労働法制において、有期労働契約の終了(雇止め)は、無制限に認められているわけではありません。
(1)労働契約法第19条(雇止め法理)
これが最大のリスクポイントです。
過去の最高裁判例(東芝柳町工場事件など)で確立されたルールが成文化されたもので、以下のいずれかに該当する場合、使用者が契約更新を拒否(雇止め)しても、労働者が更新を申し込めば、使用者は更新を承諾したものとみなされます(つまり、雇止めが無効となり契約が継続します)。
- 実質無期契約型: 過去に反復して更新されており、雇止めすることが、実質的に無期契約の労働者を解雇するのと同視できる状態にあること。
- 例:更新手続きが形骸化している(契約書を作り直していない、自動更新になっている等)、業務内容が恒常的である。
- 期待保護型: 契約期間満了時に、労働者が「契約が更新されるもの」と期待することに合理的な理由があること。
- 例:採用時に「長く働いてもらうつもりだ」と言った、過去に同様の立場の人が更新されている、契約書に「更新する場合がある」と書かれている。
繁忙期の短期アルバイトであっても、更新を繰り返したり、不用意な発言をしたりすることで、この「雇止め法理」が適用され、契約を終了できなくなるリスクがあります。
2. トラブルを防ぐ「入り口」の対策:契約書の明文化
雇止めトラブルの多くは、採用時(契約締結時)の曖昧さが原因です。最初の契約書でいかに明確に条件を設定するかが、将来のリスクを左右します。
(1)「更新の有無」の明確化
労働基準法により、契約期間だけでなく「更新の有無」の明示が義務付けられています。
繁忙期限定の雇用の場合は、以下のいずれかを明確に記載すべきです。
- 更新しない旨の明示: 「契約の更新はしない」と断定的に記載する。これが最もトラブルが少ない形式です。
- 原則更新しないが、例外あり: 「原則として更新しない。ただし、業務量や勤務成績により更新する場合がある」とする場合、期待権を生じさせるリスクがあるため、次の(2)の基準設定が重要になります。
(2)「更新する場合の基準」の具体化
更新の可能性がある場合は、どのような場合に更新されるのか、判断基準を具体的に列挙する必要があります。
- 契約期間満了時の業務量
- 労働者の勤務成績、態度
- 労働者の能力
- 会社の経営状況
- 従事している業務の進捗状況
これらを記載しておくことで、期間満了時に「業務量が減少したため更新しない」という説明に客観的な根拠を持たせることができます。
(3)不更新条項(契約期間の上限)の設定
「本契約の更新は通算○回までとする」「通算の契約期間は○年を上限とする」といった条項を設けることも有効です。
特に、繁忙期が終了する目処(例:3月末まで)があるなら、「最長でも令和○年3月31日までとし、それ以降は更新しない」と明記することで、労働者の過度な期待を防ぐことができます。
3. 契約更新時の実務対応
当初は「2ヶ月のみ」の予定でも、業務の状況によって「あと1ヶ月だけ延長したい」「次の繁忙期も来てほしい」となることはよくあります。この「とりあえず更新」がリスクの温床となります。
(1)契約書の作り直し
更新のたびに、必ず新たな契約期間と条件を記載した契約書(または労働条件通知書)を作成し、取り交わしてください。「前回と同じ条件で」と口頭で済ませたり、契約書を作成せずに働かせたりすると、更新手続きが形骸化しているとみなされ、雇止め法理の適用(実質無期契約型)を受けやすくなります。
(2)無期転換ルールへの留意
同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)に転換できるルールがあります(労働契約法第18条)。
繁忙期ごとの短期雇用であっても、契約がない期間(空白期間・クーリング期間)が6ヶ月未満であれば、通算契約期間は継続します。
「必要なときだけ呼ぶ」という雇用形態を何年も続けていると、いつの間にか無期転換権が発生している可能性があるため、通算期間の管理は必須です。
4. 雇止めを行う際の手順と注意点
やむを得ず契約を終了(雇止め)する場合、法的な手順を踏む必要があります。
(1)雇止め予告
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚生労働省告示)により、以下のいずれかに該当する労働者を雇止めする場合、少なくとも契約期間満了の30日前までに予告することが求められています。
- 有期労働契約が3回以上更新されている場合
- 雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している場合
30日前までの予告は法律上の罰則付き義務ではありませんが、トラブル防止の観点からは遵守すべき重要な手続きです。また、予告時には「雇止めの理由」を説明できるように準備しておく必要があります。
(2)雇止め理由証明書の発行
労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません。
ここでは、契約書に記載した「更新の判断基準」に基づき、具体的な理由(例:担当業務の終了、事業縮小、勤務態度不良など)を記載します。後々、訴訟や労働審判になった場合、ここで記載した理由の正当性が争点となります。
(3)説明と納得
法的な手続きも重要ですが、現場レベルでのコミュニケーションも欠かせません。
「契約期間満了だから当然」と事務的に通知するのではなく、これまでの労務提供への感謝を伝えつつ、当初の契約内容や現在の経営状況(繁忙期の終了など)を丁寧に説明することで、感情的な対立を避けることができます。
5. 繁忙期特有のトラブル事例
事例:建設現場の工期遅延と契約延長
建設業などでは、天候や資材不足により工期が延び、短期契約の作業員に「あと少しだけ」と延長をお願いすることがあります。
この際、契約書を更新せずになんとなく働かせ続け、工期終了とともに「明日で終わり」と告げるとトラブルになります。
工期が不明確な場合でも、「〇月〇日まで」と期間を区切り、延長が必要ならその都度「〇月〇日まで延長する」という覚書を交わす厳密な運用が、最終的な雇止めの正当性を担保します。
事例:学生アルバイトの卒業と更新
学生アルバイトの場合、卒業と同時に退職するのが一般的ですが、稀に「就職が決まらなかったので続けたい」と更新を希望されるケースがあります。
企業側がそれを想定しておらず、人員過剰で断る場合、事前に「学生である期間に限る」といった条項や、更新基準の明確化がなされていないと、雇止めが難しくなる場合があります。
弁護士に相談するメリット
短期雇用や雇止めの問題は、企業の柔軟な人員配置戦略と直結しますが、一歩間違えれば長期的な紛争リスクを招きます。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
1. リスクを予防する契約書の作成・レビュー
「更新しない」ことの明示方法や、更新基準の具体的な書き方、不更新条項の有効性など、企業の運用実態に合わせつつ、法的リスクを最小限に抑える契約書のひな形を作成・レビューします。
2. 雇止め実行時の戦略的アドバイス
特定の従業員を雇止めしたい場合、その従業員の契約状況(更新回数、期間、言動など)を分析し、雇止めが有効と認められる可能性(勝算)を診断します。その上で、30日前の予告のタイミングや、説明の方法、想定される反論への対策など、具体的な実行プランを策定します。
3. 団体交渉や労働審判への対応
雇止めに不服を持った労働者が、ユニオン(合同労組)に加入して団体交渉を申し入れてきたり、労働審判を申し立てたりするケースが増えています。弁護士が代理人として交渉や法的手続きに対応することで、不当な要求を退け、迅速かつ適切な解決を図ることができます。
まとめ
繁忙期の短期雇用は、企業にとって重要な経営手段ですが、「短期だから」「アルバイトだから」といって法的な保護が弱いわけではありません。
むしろ、有期契約であるからこそ「更新」と「雇止め」という特有の法的論点が発生し、無期雇用の社員とは違った難しさがあります。
トラブルを防ぐ最大のポイントは、「入り口(契約締結時)での条件の明確化」と「契約期間管理の徹底」です。
「忙しい時期だけ助けてもらう」という合意内容を、曖昧な口約束ではなく、明確な書面として残しておくこと。そして、更新する場合には漫然と行わず、将来の終了時を見据えた手続きを行うこと。これが、会社を守り、かつ働く側の予見可能性を確保するための必須条件です。
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