相談内容
当社は、経営状況の悪化が長期化しており、リストラを検討せざるを得ない状況となっています。
やむを得ず、従業員の中からリストラ候補者Aを選定し、退職勧奨をする面談を行うことにしました。
ところがAは、退職勧奨に応じようとしなかったことから、人事担当者の面談は数時間にわたった上、大声で「退職に応じなかったら懲戒解雇するしかないが、それでもいいのか」と怒鳴りました。
ようやくAから退職届を出してもらいましたが、このような進め方に問題はなかったでしょうか。
回答
- 退職勧奨を行うこと自体は問題ありませんが、退職を強要したと評価される場合には違法と判断され、退職が無効とされる可能性があります。
- 違法な退職強要をした場合には、会社側が損害賠償責任を負うこともあり得ます。
- 退職勧奨を適法に行うためにも、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
退職勧奨に関する相談が多い業種
退職勧奨に関するご相談は幅広い業種から寄せられていますが、特に以下の業種から多い傾向にあります。
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これらの業種は、慢性的な人手不足の課題を抱えているところ、採用のハードルを下げてしまったために労使双方のミスマッチが生じやすいほか、景気に左右されやすい面もあり、人件費の調整のために退職勧奨の問題が生じやすいといえます。
退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社の業績悪化に伴う人員削減のための手段として、会社が個々の社員に対して退職を促すことをいいます。
退職勧奨の結果、解雇という最終手段に至らず、社員と会社との合意による合意退職を実現させることを目的としています。
退職勧奨による合意退職の要件
退職勧奨による合意退職は解雇ではないため、人員整理の目的ではあっても、整理解雇の4要件(ないし4要素)を満たす必要はない、と解されています(ダイフク(合意退職)事件(大阪地裁平成12年9月8日労判798号))。
もっとも、退職勧奨による合意退職も無制限に行えるわけではなく、社員の自由意志を尊重し、退職の合意形成に任意性が認められることが必要であり、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し、当該社員に対する損害賠償責任を生ぜしめうることに注意が必要です(エール・フランス事件(東京高裁平成8年3月27日労判706号))。
なお、退職金の優遇は、上記任意性の判断に際して有力な事情の一つとして考えられており、会社としては、通常の会社規定の退職金に加えて、退職割増金の支払や、再就職支援制度の提供等、有利な退職条件を提示することが考えられます。
損害賠償請求
さらに、退職勧奨や退職強要が行き過ぎている場合(例えば執拗に何度も呼びつけたりすること等)、違法な退職勧奨や退職強要として不法行為に該当し、損害賠償請求をすることも考えられます。
裁判例
退職勧奨による合意退職は、解雇の場合と比べて緩やかな要件で認められるといえますが、その具体的な要件については明確な基準は確立されていません。
これまでに退職勧奨による合意退職の適法性が問題となった主な裁判例を整理すると、概要以下のとおりです。
裁判例 |
退職勧奨の態様 |
適法性 |
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日本航空(雇止め)事件(東京地裁平成23年10月31日) |
長時間「いつまでしがみつくつもりなのかなっていうところ」「辞めていただくのが筋です」「懲戒免職とかになったほうがいいんですか」等の表現を用いた事例 |
違法 |
全日本空輸(退職強要)事件(大阪地裁平成11年10月18日) |
30回にわたり、ときに8時間にわたる面談を行い、大声を出したり机をたたいたりした事例 |
違法 |
東光パッケージ(退職勧奨)事件(大阪地裁平成18年7月27日) |
職場を閉鎖して仕事を奪うだけで、他への配転を検討しなかった事例 |
違法 |
サニーヘルス事件(東京地裁平成22年12月27日) |
1週間に1回30分程度で7回面談を行い、会社に残っても居場所がなくなるから希望退職に応じた方がよいと繰り返し説得した事例 |
適法 |
ダイフク(合意退職)事件(大阪地裁平成12年9月8日) |
5名に対して突然面談を行い、選定理由を伝えずに勇退をお願いしたい等と告げたが、回数はいずれも1回程度と少なく、時間も短時間で、従業員らも即答せず、後日回答した事例 |
適法 |
UBSセキュリティーズ・ジャパン事件(東京地裁平成21年11月4日) |
一部適切さを欠いた言動はあったが、退職勧奨の理由を伝えたこと、従業員が退職を拒否したところ同日退職勧奨を打ち切り、合意退職に向けた話し合いをしたり、他部署への異動の面接を受けることを提案したりするなどしたこと、訴え定期後も給与を支払い続けた事例 |
適法 |
退職勧奨でお悩みの企業は労働問題に詳しい弁護士にご相談ください
以上のとおり、退職勧奨は、解雇の場合と比べて緩やかな要件で認められるといえますが、その具体的な要件については明確な基準は確立されていません。
万が一、退職勧奨が違法な退職強要や不当解雇であると判断された場合には、企業(使用者)は多大な法的リスクを負担することになります。
退職勧奨の問題を解決し、また再発を防止するためにも、使用者側労働問題に特化した弁護士に相談することをお勧めします。
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