労働基準監督署対応(行政対応)について(使用者側)

相談内容

当社は、元従業員から、未払残業代があるという訴えを受けていましたが、特に理由がないと考えそのままにしていました。

しばらくすると、労働基準監督署から呼出し状が送付されてきました。当社としては労働基準監督署に呼び出しを受けるいわれはないと考えていましたので、そのまま放っておきました。

ところが先日、突然に労働基準監督署から連絡があり、2週間後に当社に 調査に赴くという通知を受けました。

労働基準監督署の職員が押しかけてきては 従業員も不安になってしまうと思います。なんとか対応する方法はないでしょうか。

回答

労働基準監督署からの呼び出しを理由もなく拒否することを繰り返すと、臨検などの強制的な手続に切り替えられる可能性があります

労働基準監督署は捜査権限も持っているため、会社側の対応が悪質と判断された場合には送検手続きをされる恐れもあります。

会社側としては、労働基準法に違反するような行為はやってないと考えるのであれば、労働基準監督署の調査には協力した上で、会社側の主張の正当性を述べましょう

労働基準監督署の調査があったとしても、何ら問題がない労務管理体制を構築しておくことが、持続的な成長を目指す企業として望ましいあり方といえます。

ご相談が多い業種

労働基準監督署からの調査対応に関するご相談が多い業種は以下のとおりです。

  • 運送業
  • 建設業
  • 製造業
  • 宿泊業
  • 飲食業
  • 教育関連業
  • 医療・介護施設
  • サービス業

これらの業種は、いずれも労働集約型産業であり、慢性的な人手不足の課題を抱える傾向にあることから、少ない人数で業務の対応を余儀なくされる結果、長時間労働が常態化しやすいといえます。長時間労働が常態化している結果、未払残業代の問題なども起こりやすく、労働基準監督署への相談事例が多い傾向にあります。

また、運送業や建設業では、業務の性質上、労働災害が発生することもありますが、労働災害の発生を端緒として労働基準監督署の調査が開始されることもあります。

労働基準監督署対応のポイント

労働基準監督署とは

労働基準関係法令の実行を確保するために設けられた労働基準監督機関の第一線機関です。

労働基準監督署は全国に321署と4つの支署があります。通常は略称として、労基署、労基、監督署などと呼ばれています。

労働基準監督官の権限

労働基準監督署に配置される労働基準監督官の権限は、大きく分けて行政上の権限と司法警察員としての権限に分類することができます。

それぞれの権限について、特に重要な点を整理すれば以下のとおりです。

行政上の権限

「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」と規定されています(労働基準法101条1項)。

このように、労働基準監督官は、労基法上、施設に立入調査をしたり、帳簿等の提出を求めたり、使用者等に対して尋問を行うことができる法的根拠を有しています。

なお、労働基準監督官は、立入調査等の際には、「その身分を証明する証票を携帯しなければならない」と規定されています(労働基準法101条2項)。

ちなみに、上記労働基準法101条1項にいう「帳簿及び書類」とは、労働者名簿(労働基準法107条)、賃金台帳(労働基準法108条)等を指します。これらの書類について、使用者には3年間の保存義務があります(労働基準法109条)。

また、労働基準監督官は、労働基準法だけでなく、労働安全衛生法上も立入調査が認められています。

「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる」と規定されています(労働安全衛生法91条1項)。

司法警察員としての権限

また、労働基準監督官は、上記の行政上の職務権限のほか、司法警察員としての職務権限を有しています。

労働基準法上、「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」と規定されています(労働基準法102条)。

労働基準法等の法令違反の程度が悪質であると判断される場合、労働基準監督官によって逮捕や送検されることもあり得ます。

労働基準監督署の監督への対応

労働基準監督署は、会社の事業場に対し強制的に立入検査(臨検監督)を実施し、法令違反を是正指導します。臨検監督は、事前に会社に連絡せずに実施されることもあります。

臨検監督には以下のような種類があります。

定期監督

最も一般的な調査で、当該年度の監督計画により、労働基準監督署が任意に調査対象を選択し、法令全般にわたって調査をいいます。

申告監督

労働者からの申告があった場合(いわゆる労働者が労基署に駆け込んだ場合)に、その申告内容を確認するために行う調査をいいます。

災害調査

死亡事故の発生など重大な労働災害が発生した場合に、事故発生後に実施される調査をいいます。

災害時監督

事故報告書などから法違反の可能性がある事故について実施される調査をいいます。

労働基準監督署の臨検監督のフローチャート

労働基準監督署による臨検監督の流れは以下のとおりです。

労働基準監督署対応(行政対応)について(使用者側)

臨検監督の端緒

臨検監督の端緒として、定期監督の場合は、労基署の年間計画に基づいて対象となる事業場を決定します。

申告監督の場合には、実際に就労する労働者からの申出によります。

災害時監督の場合には、労災事故の発生が端緒になります。 

臨検監督の実施

事業場の調査を決定した場合、次に労働基準監督官が事業場を訪問する日を決定します。

臨検監督では、事業場における関係者の事情聴取や、賃金台帳や就業規則等の書類の確認、現場検証を行います。 

法令違反の調査

調査の結果、問題が発見されなければ、特に指導や勧告を受けることなく、労働基準監督官による調査は終了となります。

是正監督・改善指導等

調査の結果、法令違反が判明した場合、文書による指導、是正勧告が出されることになります。悪質な事案については、指導や是正勧告を経ることなく、送検されることもあり得ます。 

是正勧告等が出されると、労働基準監督署は、一定期間待った上で、事業場の改善状況を確認します。労働基準監督署が事業場の違反状態が是正されていると判断すれば、調査は終了となります。

一方、労働基準監督署が事業場の改善が見られないと判断した場合には、再度の勧告を行うほか、場合によっては改善の意向が見られないとして送検されることもあり得ます。

労働基準監督署への対応上の留意点

労働基準監督署の呼び出しへの対応

労働基準監督書の呼び出し等は任意であることから、日程調整等を行うことは可能です。

もっとも、具体的な理由もなく呼び出しを拒否し続けることは、労働基準監督署の心証を害するだけでなく、強制捜査の端緒となるおそれもあることから、決して推奨できるものではありません

臨検監督への対応

労働基準監督署の臨検監督を拒否することは罰金の対象となります(労働基準法120条)

臨検監督を理由もなく拒否することは、罰金処分のリスクがあるだけでなく、労働基準監督署の心証を害するおそれもあることから、労働基準監督署の呼び出し以上に拒否することは推奨できるものではありません。

労働基準監督署からの呼び出しや臨検監督を受けた場合には、いたずらに拒否したり隠したりするのではなく、まずは現状を正しく認識した上で調査に対応し、どの点に法令違反のおそれがあるかを確認する必要があります

そして、労働基準監督署から是正勧告等を受けた場合、その改善に向けた対応を講じるなどの再発防止策に努めるべきといえます

労働基準監督署の対応でお悩みの企業は労働問題に詳しい弁護士にご相談ください

労働基準監督署の対応は、判断を誤ると労働基準監督署から臨検監督を受けたり、場合によっては送検され刑事処分を受けたりするリスクもあります。

労働基準監督署に対して適切に対応し、自社の人事労務管理を適正に行うためにも、使用者側労働問題に特化した弁護士に相談することをお勧めします。

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