企業経営者が押さえるべき「争議行為」の正当性と対応策

Q&A

Q(中小企業経営者より)

最近、うちの会社で労働組合がストライキを検討していると耳にしました。正直、争議行為って何なのか、どこまでが正当なのか、そしてこちらはどう対処したらいいのか分からず不安です。

A(弁護士法人長瀬総合法律事務所の回答)

争議行為とは、労働組合が労働者の要求や抗議を目的に行う集団行動で、その代表格がストライキです。日本国憲法28条で保障される団体行動権に基づき、一定の条件下で正当性が認められた場合には、刑事・民事上の責任追及を受けにくくなる特別な法的効果があります。また、不当な圧力や報復的な解雇、懲戒処分は違法とされます。

この原稿では、争議行為の基本概念から正当性、具体的な対処方法、さらに弁護士へ相談するメリットまでを解説します。経営者の皆様が法的な視点から判断・対応する上での一助となれば幸いです。」

はじめに

争議行為は企業活動や労務管理に深く関わる重要な問題です。本稿では、まず争議行為の定義・歴史的背景から、どのような行動形態があるのか、さらに正当性の要件や使用者側が知っておくべき免責規定、そして不利益取扱禁止の原則までを説明していきます。

目次

  1. 争議行為とは何か
  2. 憲法28条と団体行動権の位置づけ
  3. 争議行為の多様な形態
  4. 正当な争議行為の効果:刑事免責・民事免責とその根拠条文
  5. 不利益取扱禁止とは:企業側が注意すべき点
  6. 弁護士に相談するメリット:紛争対応戦略と法的リスクマネジメント
  7. まとめ:争議行為理解の重要性

1. 争議行為とは何か

「争議行為」とは、労働組合が労働条件改善や経営者側への要求を通じて労使関係を有利に導く目的で行う集団的な行動を指します。その代表例がストライキ(同盟罷業)で、組合員が一斉に労務提供を拒否することで経営者側に圧力をかけます。

この行為は単なる抗議行動ではなく、法的にも一定の意味合いを持っています。日本国憲法28条は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動する権利」を保障しており、争議行為はこの「団体行動権」に基づくものです。世界的に見ても、イギリスやアメリカ、ドイツなどの労働法制から影響を受け、団体交渉を実効あるものにするために、団体行動権は不可欠と考えられてきました。

近年では争議行為自体は少なくなりましたが、発生すれば企業活動に大きな影響を与える点に変わりはありません。

2. 憲法28条と団体行動権の位置づけ

憲法28条は、労働者が団結し、団体交渉や団体行動を通じて労働条件の改善を求める権利を明示的に保障しています。この根幹的権利がなければ、経営者側は労働組合を効果的に無視でき、実質的な交渉力は損なわれてしまいます。

国際的な労働法の考え方でも、労働条件の決定には使用者と労働者の対等な交渉が必要であり、そのための実力行使手段として争議行為は不可欠と位置づけられてきました。団体行動権は、経営者側から見れば「業務妨害」にも映りうる行為を正当な権利として保障する特別な地位にあるといえます。

3. 争議行為の多様な形態

争議行為の典型例はストライキですが、その方法は多様です。たとえば、全組合員が一斉にストに入る「全面スト」だけでなく、特定部門のみで行う「部分スト」や一部の組合員を選んで行う「指名スト」などがあります。また、ストライキ以外にも、労働のペースを意図的に落とす「スローダウン」や、出張拒否、一斉休暇取得、時間外労働拒否など、多彩な方法が用いられます。

これら多様な戦術によって、労働組合はより柔軟に経営者にプレッシャーをかけることが可能となります。一方、経営者側は生産計画が乱れるなど業務上の支障を受け、迅速な対応が求められることになります。

4. 正当な争議行為の効果

刑事免責(刑法35条、労組法1条2項)

正当な争議行為であれば、刑事責任が免除される場合があります。争議行為は形式的には強要罪や住居侵入罪などに該当しうる行為です。しかし、労働組合法(以下「労組法」)1条2項は、憲法28条に基づく正当な争議行為については、刑法35条(「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」)の適用があることを明記しています。

ただし、「いかなる場合においても、暴力の行使」は正当行為と解釈されません(労組法1条2項但書)。この点を超えると、正当性は失われ、刑事責任を免れられなくなります。

民事免責(労組法8条)

労組法8条は、正当な争議行為による損害について使用者が組合や組合員に対して損害賠償を請求できないと規定しています。

ストライキは労務不提供であり、通常であれば債務不履行や不法行為責任が問われても不思議ではありません。しかし、正当な争議行為と評価されれば違法性が阻却され、使用者は損害賠償請求ができなくなります。これにより、組合側は一定の安全保障の下で交渉力を発揮できます。

5. 不利益取扱禁止とは:企業側が注意すべき点(労組法7条1号)

正当な争議行為を行った組合員に対し、使用者が報復的な解雇や懲戒処分を行えば、それは不当労働行為として禁止されます(労組法7条1号)。労働者が正当な権利行使をした結果、解雇や減給などの不利益を被ることがあれば、これは法律違反です。使用者側は、争議行為後の人事措置についても慎重な判断が求められます。

6. 弁護士に相談するメリット:紛争対応戦略と法的リスクマネジメント

争議行為が想定される、あるいはすでに発生している状況では、専門家である弁護士に相談することには多くのメリットがあります。

法的リスクの的確な評価

争議行為の正当性をめぐる判断や、使用者側が講じるべき対策の合法性は複雑な問題をはらみます。弁護士に相談すれば、該当する法律(憲法、労組法、刑法など)の解釈や過去の判例、実務慣行に基づいて、リスクを正しく評価できます。

適切な対応策の立案

弁護士は、企業側が今後とりうる行動(交渉戦略、労働条件見直し、組合との話し合いプロセスの構築)や、正当な範囲での対抗手段、法的手続の選択肢などについて具体的なアドバイスを提供します。

不当労働行為リスクの回避

労組法7条違反の不当労働行為に該当しないよう、解雇・懲戒・配転などの措置をとる際の留意点や、争議行為後の労務管理に関するガイドラインを示すことができます。法的見解を踏まえて行動することで、後々の法的紛争を未然に防ぐことが可能です。

企業イメージとコンプライアンス強化

法的に適正な対応をとることは、従業員や取引先、顧客からの信頼にもつながります。コンプライアンスを重視する風潮が強まる中、問題発生時に専門家を交えた戦略的な意思決定を行うことは、長期的な企業価値向上にも資するでしょう。

7. まとめ:争議行為理解の重要性

争議行為は、労働組合が正当な権利として行い得る強力な手段であり、その効果は刑事・民事免責によって法的に裏付けられています。また、正当な争議行為に対する不利益取扱いは禁止されており、企業側は対応を誤れば法的リスクを負うこととなります。

経営者としては、争議行為に関する基本的な法的知識を身につけ、事前の対策を整えることが重要です。その際には、専門家である弁護士へ相談し、的確なアドバイスを受けることが有益です。労使間のバランスをとりつつ、適正な労務管理を行うことで、企業は持続的な発展の基礎を築くことができます。

 

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