正当な争議行為の判断基準とポイント:経営事項に関するストライキの可否

Q&A

Q(企業経営者からの質問)

うちの会社の経営方針に関する問題でも、労働組合がストライキを打つことができるって聞いたんですけど、そんなことが本当にあるんですか?

経営そのものに口を出されると、ちょっと困るんですよね。そもそも、経営事項にまで労働組合が踏み込んでストライキを行うことは、法律的に許されるものなのでしょうか?

A(弁護士からの回答)

ご質問ありがとうございます。結論から申し上げると、経営に関する事項だからといって、必ずしもストライキが一切許されないわけではありません。重要なのは、その要求内容が労働条件と密接に関連しているかどうか、という点です。労働条件に影響を及ぼす経営判断(たとえば工場の閉鎖や外注化による雇用減少など)については、労働組合が正当な争議行為としてストライキを行うことが認められる可能性があります。また、使用者側が団体交渉に応じないといった場合に、それに対する抗議としてストライキが行われるケースも正当な争議行為となることがあり得ます。

一方で、特定の取締役の選任を迫るような、純粋に経営そのものに介入しようとする要求については、正当な争議行為としては認められない傾向があります。これらの判断は個別具体的な事情によって異なり、実務上は慎重な検討が必要です。

はじめに

本稿では、「経営事項」と「労働条件」にまつわる争議行為の境目や、正当なストライキと認められるための要件を解説します。さらに、経営上の大きな変更や人事に関する要求、外注化や合理化への反対がどのように法的に位置づけられるのか、実務上のポイントを説明します。

1. 正当な争議行為とは何か

ストライキをはじめとする「争議行為」は、労働者が労働条件の維持・改善を図るための合法的な手段です。憲法28条は労働基本権を保障し、労働組合法も組合による正当な争議行為を保護します。

争議行為が正当と認められるには、「労働条件の維持・改善を目的とする行為」であること、そして「社会的相当性」を欠かないことが一般的な要件と解されています。労働者側は経済的な弱者として保護される立場にあり、そのため、一定の枠組み内でストライキという手段が認められています。

2. 経営事項と労働条件の関連性

一見すると、経営事項は会社内部の経営者による専権事項であり、労働組合が口を挟むべきでないと考えがちです。しかし、現実には経営判断が労働者の雇用、給与、労働環境に直接影響を与える場合があります。

たとえば工場の閉鎖や外注化による人員削減は、労働者の雇用そのものを危機に陥れる可能性が高く、これは労働条件に深く関連します。そのため、「経営事項」であっても、労働条件に直結する事柄については、労働組合が争議行為を行う正当性が認められやすいとされています。

3. 経営事項への介入が問題となる場面

一方で、経営トップの選任や特定の取締役の解任・不選任要求など、純粋な経営政策上の人事権行使に組合が直接影響を及ぼそうとする場合はどうでしょうか。株式会社であれば、取締役選任は株主総会の権限であり、労働組合や従業員が直接関与するものではありません。こうした要求は、労働条件とは切り離された「経営そのもの」への介入とみなされやすく、正当な争議行為としては認められないことが一般的な解釈です。

4. 労働条件に関わる経営事項に対するストライキの正当性

逆に、工場の閉鎖や外注化、下請制への移行といった事項は、会社にとっては経営上の方針転換かもしれませんが、その結果として雇用形態や労働条件が大きく変わる場合、労働組合は正当な争議行為としてストライキを行うことが可能です。これは、単純に「経営権限の侵害」ではなく、「労働条件の維持・改善」という本来のストライキ目的に適合するからです。

5. 抗議ストライキの正当性

抗議ストライキとは、具体的な要求(賃上げ、福利厚生改善など)を必ずしも明示せず、使用者側の態度や行動に対する「抗議」を目的として行われるストライキを指します。たとえば、使用者が正当な団体交渉を拒否した場合、それに対する労働組合側の抗議行動としてストライキを行うことが考えられます。これは、団交拒否を改めさせ、健全な労使交渉を取り戻すという意味で、広い意味での労働条件改善行為と評価されることがあります。

6. 弁護士に相談するメリット

労使間の紛争は、経営事項と労働条件が複雑に絡み合うことが少なくありません。また、団体交渉やストライキの正当性、就業環境の安全性確保など、状況に応じて多面的な検討が必要です。

こうした場面で弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。

  1. 専門的知見による的確な判断
    労働法や判例に精通した弁護士が、要求が労働条件と関連するか、正当な争議行為とみなされうるか、事案に応じて的確な助言を行います。
  2. 早期のリスク回避・紛争防止
    法律的に不確かな対応を取ることで、後々大きなトラブルに発展する可能性もあります。早い段階で弁護士が関与すれば、リスクを最小限に抑え、不要な紛争を避けられます。
  3. 交渉戦略の立案・実行支援
    弁護士は、使用者・労働組合双方の立場での実務経験をもとに、交渉戦略をアドバイスし、法的に許容される範囲での最善の交渉方法を提案します。
  4. 最新の法改正や判例動向の把握
    労働関係法規や裁判例は常にアップデートされています。弁護士を通じて最新の法的トレンドを把握することで、適正な対応が可能になります。

7. 本稿のまとめ

経営事項に関するストライキが常に不当かといえば、必ずしもそうではありません。争議行為の正当性は、要求事項が労働条件に密接に関連するか否かで判断されます。取締役の選任など純粋に経営判断に属する領域への介入は許されないとされる一方、合理化や外注化など、労働者の雇用や処遇に直接関わる場合には正当な争議行為となり得ます。抗議ストライキも、広く労働条件の改善や安全確保を求める行為として正当な争議行為に該当し得ることがあります。

実際には事案ごとの詳細な検討が必要であり、当事者が独自に判断するには限界があります。法的リスクを低減し、適正な対応をとるためには、労働法分野に精通した弁護士のサポートが有益です。

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