労働組合員に対する懲戒処分と不当労働行為の関係

Q&A

Q:労働組合員による行動を理由に懲戒処分を行った場合、これは不当労働行為に該当するのでしょうか?

労働組合の少数派による活動であっても、それが組合としての正当な活動にあたる場合は、不利益な処分を行うことで不当労働行為とみなされる可能性があります。ただし、その活動が「組合の活動」といえるかどうかは、一概に断定できません。企業としては慎重な検討が求められます。

はじめに

本稿では、労働組合員による行動を会社が懲戒処分した場合に、不当労働行為に該当するかどうかについて解説します。労働組合活動にまつわる問題は、企業と労働者の双方にとって重要でありながら、専門的かつ複雑な論点を含んでいます。特に、「本当に組合の活動なのか?」という点は、不当労働行為の成立を左右する争点となるため、十分な理解と慎重な対応が欠かせません。

ここでは、関連する法律や裁判例、学説を踏まえつつ、どのような場合に不当労働行為となり得るか、企業においてどのような点に注意すべきかを解説していきます。また、弁護士に相談するメリットや、実務上の重要なポイントも盛り込みました。ぜひ最後までご覧いただき、参考にしていただければ幸いです。

目次

  1. 労働組合員への懲戒と不当労働行為の関係
  2. 「労働組合の正当な行為」の基本的な考え方
  3. 組合活動と認められる基準に関する裁判例
  4. 実務上の注意点
  5. 弁護士に相談するメリット
  6. まとめ

1.労働組合員への懲戒と不当労働行為の関係

不当労働行為の概要

日本では労働組合法によって、労働組合活動を保護するためのさまざまな規定が設けられています。その中でも重要なのが不当労働行為を禁止するルールです。労働組合法第7条では、使用者(会社)が組合活動を理由として労働者に不利益を与えることなどが厳しく制限されています。

たとえば、組合活動を理由にした解雇や降格、賃金の引き下げなど、労働者に対して不利となる処分は、不当労働行為に該当する可能性があります。企業としては、労働組合活動を「嫌がって」不利益を与えてしまうと、法律違反となるリスクがあるのです。

組合員による行動と懲戒処分

では、労働組合員が行った行動を理由に懲戒処分を行った場合はどうなるのでしょうか。ポイントとなるのは、その行動が「労働組合の活動」と認められるかどうかです。仮に組合員の行動が組合としての活動と認められる場合、それを理由に懲戒処分を行うと、不当労働行為に該当する可能性が出てきます。

2.「労働組合の正当な行為」の基本的な考え方

労働組合法第7条第1号では、使用者が「労働組合の正当な行為」に対して不利益な扱いを行うことを禁止しています。ここで重要なのは、「組合の正当な行為」とは具体的にどのような行為を指すかという点です。

組合活動が保護される理由

労働者は、使用者(会社)に対して圧倒的に弱い立場にある場合が多く、その権利を守るために団結して組合を結成し、交渉力を高めることが認められています。組合活動が十分に機能しなければ、労働者が公正な労働条件を得ることは難しくなります。そのため、労働組合の活動を保護する制度として不当労働行為の禁止が設けられています。

どこまで「正当な行為」か

組合員の活動が、組合としての活動に該当すると判断されれば「正当な行為」にあたり、使用者がこれを理由に懲戒処分などを行うと不当労働行為とみなされる可能性があります。たとえば、組合の方針に明示的に反していない場合や、独自の立場であっても団結権の行使として認められる場合には、正当な組合活動とされるケースがあります。

3.組合活動と認められる基準に関する裁判例

裁判例では、組合活動と認められるか否かについて、明確な統一基準が確立されているわけではありません。事案ごとに個別に判断されるため、過去の裁判例を総合的に参照する必要があります。

判例の中には、組合の明示の承認がなくとも、「黙示の承認」が認められる場合には組合活動として扱われるという考え方があります。たとえば、新規採用者に対する加入勧誘が黙示的に組合から承認されていたと評価された例や、職制批判などの記事を機関誌に投稿・掲載した組合員の行為を「組合の団結権擁護と地位の向上を図る目的である」として正当な活動と認めた例があります。

このように、少数派の活動であっても、組合全体の利益につながる行為、または組合が形式上黙認している行為であれば、「組合活動」と評価される可能性があるのです。

4.実務上の注意点

黙示の承認があれば不当労働行為となり得る

裁判例でも指摘されているように、少数派の活動であっても、黙示の承認が認められる場合には保護の対象になりやすいといえます。企業としては、「あの行為は本当に組合の活動とはいえない」と判断して懲戒処分に踏み切る前に、「黙示的に承認されている可能性はないだろうか」と慎重に検討する必要があるでしょう。

慎重な対応と事前対策

組合員の活動を不利益に取り扱う場合は、特にリスク管理が重要です。仮に懲戒処分を行う場合には、しっかりと根拠を整理し、それが**「組合としての活動」に該当しないことを証明できるかどうか**を慎重に検討すべきです。そのうえで、社内規定や就業規則に基づく懲戒事由を適切に適用できるかどうか、弁護士などの専門家と相談のうえで進めることが望ましいでしょう。

5.弁護士に相談するメリット

労働組合とのトラブルは、企業の運営に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に少数派による活動への懲戒処分が不当労働行為に当たるかどうかは、非常に微妙な判断を伴うため、法的な専門知識に基づいた検討が不可欠です。ここでは、労働問題において弁護士に相談するメリットを挙げてみます。

  1. 最新の法令・裁判例・学説に基づくアドバイス
    不当労働行為の判断は、法律の条文だけでなく、過去の裁判例や学説の解釈によっても左右されます。労働問題に詳しい弁護士ならば、最新の裁判例や学説を踏まえてリスクを正確に見極めることができます。
  2. 紛争の予防と迅速な対応
    労働組合との紛争を未然に防ぐためには、就業規則や懲戒規程などを明確に整備しておくことが重要です。弁護士に相談することで、事前にリスクの芽を摘み取り、問題が深刻化する前に適切な対応が可能となります。
  3. 交渉や労働委員会での手続きのサポート
    万が一、不当労働行為として問題が提起された場合、労働委員会での審査や裁判において主張・立証を進める必要があります。法律の専門家である弁護士が交渉や手続きをサポートすることで、企業側のリスクを最小限に抑えられます。
  4. 複雑な法的手続きの一元管理
    労働問題が深刻化すると、労働委員会や裁判所など、さまざまな機関とのやり取りが必要になります。弁護士に依頼しておけば、一連の手続きを一元管理して進められるため、企業としては本業に集中しやすくなるメリットがあります。

このように、労働組合とのトラブルに関しては、早めに弁護士に相談することで不必要な混乱やリスクを避けられる可能性が高まります。特に少数派による活動という難しいケースほど、専門家のサポートは重要です。

6.まとめ

労働組合内の少数派が行った行動を理由に懲戒処分を行った場合に、不当労働行為に該当するかどうかは、その行動が組合活動として認められるか否かによって大きく変わります。

企業が組合員の行動を問題視する場合は、以下の点を特に注意してください。

  • その活動が「組合の正当な行為」として保護される可能性はないか
  • 組合の明示もしくは黙示の承認が認められないか

不当労働行為に該当すると判断されると、懲戒処分の取消しや金銭賠償など企業にとって大きな負担となるおそれがあります。法令や裁判例を理解し、慎重に検討したうえで、必要に応じてお早めに弁護士に相談することが重要です。

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