M&Aの初期段階で失敗しない!秘密保持契約(NDA)とLOI(意向表明書)の作成ポイントと注意点を弁護士が解説

はじめに

M&A(企業の合併・買収)は、企業の将来を左右する重大な経営判断です。そのプロセスは長く、複雑ですが、実は「最初のボタンの掛け違い」がその後の交渉を破談に追い込んだり、あるいは将来的な法的トラブルの火種になったりすることが少なくありません。

M&Aのプロセスにおいて、ごく初期段階で取り交わされる重要な書類が「秘密保持契約書(NDA)」と「意向表明書(LOI)」です。

「たかが形式的な書類だろう」「ひな形にサインすればよいだろう」と安易に考えていないでしょうか。これらの書面は、M&Aにおける情報の管理と、交渉の主導権争いにおいて極めて重要な役割を果たします。

特に、M&Aの情報が従業員や取引先に早期に漏洩してしまうと、人材の流出や取引停止といった深刻なダメージ(風評被害)を招き、M&A自体が頓挫するだけでなく、企業価値そのものを毀損するおそれがあります。また、意向表明書の内容や法的拘束力の有無を正しく理解していないと、不利な条件で独占交渉権を与えてしまい、身動きが取れなくなることもあります。

本記事では、M&Aを検討し始めた経営者様や法務担当者様に向けて、M&Aの入り口である「秘密保持契約(NDA)」と「意向表明書(LOI)」について、その役割、作成時の重要ポイント、そして独占交渉権などの戦略的な条項について解説します。

Q&A

Q1. M&Aの検討を始める際、一番最初に結ぶべき契約は何ですか?

原則として「秘密保持契約(NDA)」です。

M&Aの検討では、未公開の財務情報、顧客リスト、技術情報、そして何より「M&A(売却・買収)を検討しているという事実そのもの」を相手方に開示する必要があります。これらの情報が外部に漏れると、信用不安や従業員の動揺を招くため、詳細な情報の開示(ネームクリア)を行う前に、必ず秘密保持契約を締結し、情報の管理体制を法的に義務付ける必要があります。

Q2. LOI(意向表明書)を出したら、必ずその条件で買収しなければなりませんか?

原則として、買収価格などの条件については法的拘束力を持たせないことが一般的です。

LOIはあくまで「現時点での購入希望条件の提示」であり、その後のデューデリジェンス(買収監査)の結果次第で条件は変更され得るものだからです。ただし、LOIの中に含まれる「秘密保持義務」や「独占交渉権」、「有効期間」などの条項については、法的拘束力を持たせる(違反した場合に法的責任を問える)ように記載するのが通例です。どの部分に法的拘束力があり、どの部分にはないのかを明確に区別して作成することが重要です。

Q3. 「独占交渉権」とは何ですか?なぜLOIに入れるのですか?

独占交渉権とは、一定期間、売り手が特定の買い手候補とのみ交渉を行い、他社との接触や交渉を禁止する権利です。

買い手にとっては、デューデリジェンスに多額の費用と時間をかける前に、他社に案件を横取りされるリスクを排除するために不可欠な権利です。一方、売り手にとっては、より良い条件を提示する他の候補者を排除することになるため、独占交渉権を与えるか否か、与えるとして期間をどの程度にするか(通常は1〜3ヶ月程度)は慎重な判断が求められます。

解説

1. M&Aプロセスの全体像と初期書類の位置づけ

M&Aの一般的なプロセスにおいて、今回解説するNDAとLOIは以下の段階で登場します。

  1. ソーシング(相手探し):ノンネームシート(社名を伏せた概要書)での検討。
  2. 【秘密保持契約(NDA)の締結】:詳細情報を開示する前に締結。
  3. 情報開示・トップ面談:IM(インフォメーション・メモランダム)の開示、経営者同士の面談。
  4. 【意向表明書(LOI)の提出】:買い手から売り手への条件提示。
  5. 基本合意書(MOU)の締結:大枠の合意(LOIで代用されることもあります)。
  6. デューデリジェンス(DD):買収監査の実施。
  7. 最終契約書(DA)の締結・クロージング

このように、NDAとLOIは、本格的な調査(DD)や交渉に入る前の「入り口」にあたるプロセスです。ここで適切な法的枠組みを作っておくことが、後のスムーズな進行を決定づけます。

2. 秘密保持契約(NDA)の重要ポイント

通常の取引でも秘密保持契約(NDA)は締結されますが、M&AにおけるNDAは、その情報の重要性と漏洩時のダメージの大きさにおいて特殊性があります。

(1) 何を「秘密情報」と定義するか

一般的なNDAでは「書面で開示され、秘密である旨が明示されたもの」を秘密情報と定義することが多いですが、M&Aの初期段階では口頭でのやり取りも頻繁に行われます。そのため、「口頭で開示された情報であっても、開示後〇日以内に書面で秘密である旨を通知したもの」を含めたり、あるいは「本件検討に関連して開示された一切の情報」と広く定義したりすることが検討されます。

また、最も重要なのは「本件M&Aの検討・交渉を行っている事実そのもの」を秘密情報に含めることです。これが漏れると、売り手企業内で「会社が売られるらしい」という噂が広まり、大量退職などの混乱を招くおそれがあります。

(2) 「目的外使用」の禁止

開示された情報を、M&Aの検討以外の目的(例えば、買い手が売り手の顧客リストを自社の営業に利用するなど)に使用することを厳格に禁止する必要があります。競合他社同士のM&A検討においては、破談になった後にノウハウだけ盗用されるリスクがあるため、特に注意が必要です。

(3) 開示範囲の制限(Need to knowの原則)

秘密情報を知ることができる範囲を、検討に関与する役員、担当従業員、弁護士・会計士などの外部アドバイザーに限定します。「知る必要のある者(Need to know)」以外への不用意な拡散を防ぐための規定です。

(4) 秘密保持期間の設定

通常の取引契約では「契約終了後3年間」などが一般的ですが、M&Aの情報(特に顧客情報や技術ノウハウ)は陳腐化しにくいものもあります。情報の性質によっては、5年、あるいは「永久に」秘密保持義務を負わせることも検討します。

3. 意向表明書(LOI)の役割と戦略的活用

意向表明書(Letter of Intent / LOI)は、初期的な情報開示を受けた後、買い手候補が売り手に対して「買収の意向」と「希望条件」を伝える書面です。単なるラブレターではなく、その後の交渉のベースとなる重要な書類です。

(1) LOIを提出する目的

  • 買い手のメリット: 売り手に対して本気度を示し、独占交渉権を獲得して、他社を排除する。
  • 売り手のメリット: 買い手候補が想定している価格感や条件を把握し、本格的な交渉(およびデューデリジェンスの受け入れ)に進むべき相手かどうかを選定する。

(2) 基本合意書(MOU)との違い

LOIは通常、買い手からの一方的な「差し入れ」形式をとりますが、売り手がその内容に承諾のサインをすることで「合意書」としての性質を持つこともあります。

実務上、LOIの後に双方で署名する「基本合意書(MOU)」を作成するケースと、LOIへの承諾をもって基本合意書の代わりとし、そのままデューデリジェンスに進むケースがあります(中小M&Aでは後者が多く見られます)。したがって、LOIの内容はMOUと同等に慎重に検討する必要があります。

4. LOIの主な記載事項と法的拘束力の有無

LOIの作成・審査において最も重要なのは、「法的拘束力(Binding)」を持たせる条項と、「法的拘束力(Non-binding)」を持たせない条項を明確に区別することです。

(1) 法的拘束力を持たせない事項(Non-binding)

以下の項目は、デューデリジェンス前の暫定的な条件であるため、通常は法的拘束力を持たせません。もしこれらに拘束力を持たせてしまうと、DDで重大なリスクが見つかっても価格を下げられなくなったり、買収を撤回できなくなったりする恐れがあります。

  • 買収価格(または算定方法): 「〇〇億円程度」「EBITDAの〇倍」など。
  • スキーム: 株式譲渡、事業譲渡など。
  • スケジュール: クロージングの目標日など。
  • 買収後の経営体制: 現経営陣の処遇や従業員の雇用維持など。

文言としては、「本項目の内容は現時点での意向を示すものであり、法的拘束力を有しないものとする」と明記します。

(2) 法的拘束力を持たせる事項(Binding)

以下の項目は、交渉の秩序を守るために法的拘束力を持たせる必要があります。

  • 独占交渉権(Exclusivity)
    買い手にとって最重要項目です。DDには数百万円〜数千万円の費用と多大な労力がかかります。その間に売り手が別の買い手と交渉し、そちらに売却してしまうと、買い手の投資は無駄になります。これを防ぐため、「本LOI受領後〇ヶ月間は、第三者との交渉・情報提供を行わない」という義務を売り手に課します。

    売り手としては、期間を不用意に長く設定すると、より良い条件の買い手が現れた際に機会損失となるため、必要最小限の期間(通常2〜3ヶ月程度)に留める交渉が必要です。

  • 秘密保持義務
    LOIの内容自体や、交渉の過程を知り得た情報を秘密にする義務です。別途NDAを結んでいる場合でも、念のため確認的に規定することが多いです。
  • デューデリジェンスへの協力義務
    売り手に対して、買い手が実施する調査に誠実に協力し、資料を開示する義務を課します。
  • 有効期間・準拠法・管轄裁判所
    LOI自体の効力がいつまで続くか、紛争時の解決ルールなどを定めます。

5. 売り手・買い手別:LOIの注意点

【買い手側の視点】

  • 魅力的な提案と条件: 売り手に選ばれるためには、価格だけでなく、従業員の雇用維持や経営理念の承継など、売り手の心情に配慮した定性的なメリットをアピールすることが重要です。
  • 独占交渉権の確保: 何としても独占交渉権を獲得し、競合を排除する必要があります。
  • 離脱の自由: DDの結果次第では、ペナルティなしで交渉を打ち切れる(買収しない)権利を留保しておく表現が必要です。

【売り手側の視点】

  • 独占交渉権付与の慎重さ: 独占権を与えると、その期間中は他社と比較検討ができなくなります。「本当にこの相手で良いか」「価格等の条件に納得感があるか」を見極めてからサインする必要があります。
  • 安易な条件合意の回避: 法的拘束力がないとはいえ、LOIで一度合意した価格を後から(正当な理由なく)引き上げることは信義則上困難です。「現時点での提案」であることを理解しつつも、安すぎる金額で書面に残さないよう注意が必要です。
  • ブレイクアップ・フィー(解約手数料)の回避: 稀に、買い手から「交渉が決裂した場合に補償金を支払え」という条項を求められることがありますが、安易に応じるべきではありません。

弁護士に相談するメリット

NDAやLOIは、ウェブ上のひな形を流用して作成されることもありますが、個々の案件の特殊性や力関係を反映していない場合、大きなリスクを抱えることになります。弁護士に依頼することで以下のメリットが得られます。

1. 個別の事情に応じた契約書のカスタマイズ

案件の規模、相手方との関係性(競合か否か)、情報の重要度に応じて、NDAの秘密情報の範囲や、LOIの独占交渉期間などを適切に調整します。特に海外企業とのM&Aや、特殊な技術を持つ企業のM&Aでは、標準的なひな形では対応できないケースが多々あります。

2. 法的拘束力のコントロールとリスク回避

LOIにおいて、どの条項に法的拘束力を持たせ、どの条項を努力義務に留めるかは、高度な法的判断が必要です。意図せず拘束力を持たせてしまい、後から撤回できなくなるリスクや、逆に拘束力を持たせたつもりが無効と判断されるリスクを回避します。

3. 交渉の代理と戦略的アドバイス

弁護士が交渉の前面に出ることで、相手方に対して「法的にしっかりとした対応をする企業である」という牽制になり、不当な要求を抑制できます。また、独占交渉権の期間設定や、DDの範囲などについて、依頼者の利益を最大化するための戦略的アドバイスを提供します。

4. M&A全体の法的整合性の確保

初期段階から弁護士が関与することで、最終契約(DA)を見据えた一貫性のある交渉が可能になります。初期のボタンの掛け違いを防ぎ、スムーズなクロージングへと導きます。

まとめ

M&Aにおける「秘密保持契約(NDA)」と「意向表明書(LOI)」は、単なる通過儀礼ではありません。

NDAは企業の最重要資産である「情報」を守るための盾であり、LOIは交渉の主導権を握り、成約に向けたレールを敷くための羅針盤です。

特にLOIに含まれる「独占交渉権」や「法的拘束力の有無」に関する条項は、売り手・買い手双方の利益が鋭く対立するポイントであり、ここでの取り決めが最終的なM&Aの成否を分けることもあります。

「まだ検討段階だから」と軽く考えず、初期段階から専門家である弁護士のアドバイスを受け、盤石な法的基盤の上で交渉を進めることが、M&A成功への第一歩です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、M&Aの初期検討段階から、NDA・LOIの作成・レビュー、相手方との交渉、そして最終契約まで、リーガルサポートを提供しております。企業の成長と発展のための重要な決断を、法務のプロフェッショナルとして支援いたします。まずはお気軽にご相談ください。

 

その他のコラムはこちらから

【人事労務コラム一覧】

初回相談無料|ご相談はお気軽に

【お問い合わせはこちら】


リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業法務に関する様々な問題を解説したYoutubeチャンネルを公開しています。
企業法務でお悩みの方は、ぜひこちらのチャンネルのご視聴・ご登録もご検討ください。

【チャンネル登録はこちらから】

メールマガジン

当事務所ではセミナーのご案内等を配信するメールマガジンを運営しています。
ご興味がある方は、こちらのご登録もご検討ください。

【登録はこちらから】

お問い合わせフォーム

メルマガ登録

問い合わせフォーム

トップへ戻る

牛久本部電話番号リンク 日立支所電話番号リンク 水戸支所電話番号リンク 守谷支所電話番号リンク