【使用者向け】社員の採用—経歴詐称

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

 

【質問】

当社では、即戦力として法務・コンプライアンス部門に中途採用の募集をかけ、米国アイビーリーグのロースクールを卒業し、NY州弁護士資格も保有しているとの履歴書・経歴書を送付してきた候補者を採用しました。しかし、実際に働き出して間もなく、他の社員と衝突を繰り返すばかりか、社内から彼の法律知識・経験等に対する疑問の声が噴出するようになり、調べてみたところ海外のロースクールを卒業しておらず、NY州弁護士資格も保有していないことが判明しました。

履歴書・経歴書に虚偽の情報を記載していたことになりますが、当該社員を懲戒解雇しても問題ないでしょうか?

 

【回答】

ご相談のケースでは、最終学歴である海外ロースクール卒業について偽っている上、NY州弁護士資格の有無は法務・コンプライアンス部の業務と密接に関係するため、「重要な経歴」の詐称に該当する可能性が高いといえます。

したがって、かかる重要な経歴の詐称について懲戒解雇事由となる旨就業規則等に規定していれば、当該社員を懲戒解雇することも認められると思われます。

 

【解説】

1. 経歴詐称と懲戒事由

経歴詐称とは、社員が会社に採用される際に提出する履歴書や職務経歴書において、又は面接等において、学歴・職歴・犯罪歴等を詐称し、又は真実を秘匿することをいいます。

裁判例が経歴詐称を懲戒事由とみる根拠は、それが労働契約上の信義則違反であること、労働者に対する全人格的判断を誤らせる結果、雇い入れ後の労働力の組織付け等の企業の秩序や運営に支障を生ぜしめるおそれがあること等に求められています。

なお、懲戒事由になるためには、経歴詐称が懲戒事由となる旨の就業規則や労働協約等の定めが必要です

 

2. 経歴詐称と懲戒解雇

前述のとおり、経歴詐称は懲戒事由となりますが、大部分の就業規則は「重要な詐称」に限定しており、裁判例も一貫して経歴詐称を懲戒事由として肯定するとともに、詐称された経歴は重要なものであることを要する、としています。

「重要な経歴」とは、社員の採否の決定や採用後の労働条件の決定に影響を及ぼすような経歴であり、当該偽られた経歴について、通常の会社が正しい認識を有していたならば雇用契約を締結しなかったであろう経歴、を意味します(日本鋼管鶴見造船所事件(東京高裁昭和56年11月25日労判377号))。

具体的には、最終学歴や職歴、犯罪歴、病歴等が「重要な経歴」に該当しますが、詐称の内容や当該労働者の職種等に即し、具体的に判断されます(炭研精工事件(最一小判平成3年9月19日)、グラバス事件(東京地裁平成16年12月17日労判889号)等)。なお、最終学歴の詐称については、低い学歴を高く詐称する場合だけでなく、高い学歴を低く詐称する場合も含まれます(スーパーバック事件(東京地裁昭和55年2月15日労判335号))。

 

3. 対応策

経歴詐称を未然に防ぐべく、まず募集条件や採用方針を明確化しておく必要があります。たとえば、社員の募集に際して「学歴不問」としていた場合、学歴詐称を理由とした懲戒解雇が認められない場合があります。

また、募集・採用条件を明確化するとともに、当該条件に沿った運用を行うことも大切です。弁天交通事件(名古屋高裁昭和51年12月23日労判269号)等によれば、懲戒解雇を有効とするための事情の一つとして、会社が、募集・採用条件に定められた条件を満たしていない者を原則として採用しない方針であったことが考慮されているようです。

 

4. 対応策

ご相談のケースでは、最終学歴である海外ロースクール卒業について偽っている上、NY州弁護士資格の有無は法務・コンプライアンス部の業務と密接に関係するため、「重要な経歴」の詐称に該当する可能性が高いといえます。

したがって、かかる重要な経歴の詐称について懲戒解雇事由となる旨就業規則等に規定していれば、当該社員を懲戒解雇することも認められると思われます。

【参考文献】
菅野和夫「労働法第十版」(株式会社弘文堂)

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