【使用者向け】社員の採用—採用調査

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

 

【質問】

当社では新しく営業担当を募集しているのですが、過去にいわゆる問題社員を採用してしまった苦い経験があることから、今後はそのような人材を採用しないよう注意したいと考えています。そこで、社員を採用するにあたって、過去に犯罪を犯したことがないか、破産したことがないか等を調べた上で判断したいと思うのですが、調査すること自体や調査方法について何か問題があるでしょうか?

 

【回答】

会社には、応募者に対する採用・選択の自由から派生する調査の自由が認められていますが、応募者の人格権やプライバシー権等との関係で、調査方法及び調査事項について一定の制限があります。

具体的には、社会通念上妥当な方法で、かつ、応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性に関連した事項に限って調査が認められます。

 

【解説】

1. 会社の調査の自由

会社と労働者との雇用契約、すなわち労働契約は契約関係の一つ(民法623条、労働契約法6条)ですので、企業の経済活動の自由(憲法22条、29条)及び契約自由の原則のもと、どのような者をどのような条件で雇用するかについて、会社は原則として自由に決定することができます(採用の自由、三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日))。

かかる採用の自由の一環として、会社には、採用にあたって応募者を調査する「調査の自由」も認められています

 

2. 調査の自由の限界

もっとも、応募者の人格権やプライバシー保護の観点から、応募者に対する調査についても一定の限界が存在します。

たとえば、職業安定法5条の4は、職歴、学歴、健康情報等の求職者の個人情報について、業務の目的の達成に必要な範囲内で収集し、その収集目的の範囲内で保管し使用することを募集者に義務づけています。

したがって、応募者に対する調査は、社会通念上妥当な方法で行われることが必要であり、応募者の人格権やプライバシー等の侵害になるような態様での調査は慎まなければならず、場合によっては会社に不法行為責任が成立することもあります。

また、調査事項についても、会社が応募者に対して質問できるのは、応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性に関連した事項に限られると考えられています。

 

3. 具体的な調査方法及び調査事項

以上のとおり、会社が採用時に応募者に対して質問できる項目、方法については一定の限界がありますので、以下のような方法・範囲で調査することが望ましいと思われます。

まず、調査の方法としては、履歴書の記載を確認するとともに、面接時に記載内容等について正確な情報となっているか、応募者に質問することを通じて正確な事実の有無を確認します。かかる調査に際しては、応募者の人格権・プライバシー権を不当に侵害しないよう、原則としてあらかじめ応募者の同意を得ておくことが望ましいといえます。

また、調査事項についても、応募者の担当業務と直接関係しない事項、たとえば応募者の同意も得ずにHIV抗体検査を実施すること等は避けるべきです(警視庁警察学校事件(東京地裁平成15年5月28日労判852号))。

なお、仮に経歴等に詐称があった場合には、あらかじめ就業規則等に経歴詐称等を懲戒事由として明記しておき、就業規則等違反を理由に処分を検討することになります。

【参考文献】
菅野和夫「労働法第十版」(株式会社弘文堂)

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