【使用者向け】社員の採用—誓約書等の不提出

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

 

【質問】

今年度の基本方針として、当社では中途採用に力を入れていますが、今回新たに採用した試用期間中の社員が、何度依頼しても誓約書を提出しません。提出を依頼するたびに「失念していました。」「今度こそ必ず提出します。」とは言うものの、既に試用してから3ヶ月になろうとしています。まだ試用期間中であるにもかかわらずこのような態度では先が思いやられますが、どのように対応すればよいでしょうか。

 

【回答】

ご相談のケースにおいては、まずは当該社員に対して、誓約書等の不提出が業務に支障を及ぼすことを説明するとともに、書類不提出により当該社員に対する懲戒処分がありうることを警告します。

その上で、当該社員が再度書類不提出の姿勢を改めないようであれば、就業規則等に則って、懲戒解雇等の処分を検討することになります。

 

【解説】

 

1. 会社の調査の自由

「社員の採用—採用調査」で解説したとおり、会社と労働者との雇用契約、すなわち労働契約は契約関係の一つ(民法623条、労働契約法6条)ですので、企業の経済活動の自由(憲法22条、29条)及び契約自由の原則のもと、どのような者をどのような条件で雇用するかについて、会社は原則として自由に決定することができます(採用の自由、三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日))。

かかる採用の自由の一環として、会社には、採用にあたって応募者を調査する「調査の自由」も認められており、採用段階において、応募者の思想等を調査することも認められています

 

2. 調査の自由の限界

もっとも、「社員の採用—採用調査」で解説したとおり、応募者の人格権やプライバシー保護の観点から、応募者に対する調査についても一定の限界が存在します。

たとえば、職業安定法5条の4は、職歴、学歴、健康情報等の求職者の個人情報について、業務の目的の達成に必要な範囲内で収集し、その収集目的の範囲内で保管し使用することを募集者に義務づけています。

したがって、応募者に対する調査は、社会通念上妥当な方法で行われることが必要であり、応募者の人格権やプライバシー等の侵害になるような態様での調査は慎まなければならず、場合によっては会社に不法行為責任が成立することもあります。

また、調査事項についても、会社が応募者に対して質問できるのは、応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性に関連した事項に限られると考えられています。

 

3. 誓約書等の不提出と懲戒事由

会社に調査の自由が認められていることの反射的効果として、応募者は、会社の調査が適法である範囲内において、会社の調査に協力する義務を負います。

したがって、会社が採用段階で、労働力評価に関わる事項、当該企業・職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等、企業秩序の維持に関係する事項について、必要かつ合理的な範囲で申告を求めた場合、応募者には真実を告知する義務があるといえます。

そして、かかる義務違反があった場合には、労使間の信頼関係を破壊し企業秩序に違反するものとして、重大な違反が存在したときには懲戒解雇も可能と考えられます(名古屋タクシー解雇事件(名古屋地裁昭和40年6月7日))。

かかる事態を未然に防ぐべく、まずは誓約書等の入社時必要書類の提出が採用の条件であり、これを提出しないことは懲戒事由に該当することを就業規則等に明記しておくことが挙げられます。

また、新入社員や中途社員に対して、入社後間もなく参加するオリエンテーション等において、上記書類提出の必要性を改めて強調することが考えられます。

 

4. ご相談のケースについて

ご相談のケースにおいては、まずは当該社員に対して、誓約書等の不提出が業務に支障を及ぼすことを説明するとともに、書類不提出により当該社員に対する懲戒処分がありうることを警告します。

その上で、当該社員が再度書類不提出の姿勢を改めないようであれば、就業規則等に則って、懲戒解雇等の処分を検討することになります。

【参考文献】
菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

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