【使用者向け】業務の遂行—不当に残業を拒否する社員

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

 

【質問】

当社では季節的に繁忙期を迎えることがあるのですが、一部の社員は大量の業務が残っていても、特に理由もなく「定時になったので帰ります。残業命令に応じる義務はありません。」とだけ繰り返し、一向に残業命令に応じてくれません。残業に応じてくれている他の社員からの不満も強く、社内の統率が取れず困っているのですが、こうした残業命令に応じない社員に対して処分することに何か問題があるでしょうか。

 

【回答】

三六協定を締結し届け出た上、就業規則等に時間外労働を義務づける根拠が規定されその内容が合理的な場合、不当に残業命令を拒否する社員は懲戒処分の対象となり得ます。ただし、社員に残業を拒否する正当な理由があるにもかかわらずこれを命じることは権利濫用になりうること、また、懲戒事由に該当するとしても直ちに当該社員を懲戒解雇することは無効とされるおそれがあることにご注意ください。

 

【解説】

1. 時間外労働の可否

法律上、会社は労働者に対して休憩時間を除き、1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて労働させてはならないこととされています(労基法32条)。違反した場合、6ヶ月以内の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(労基法119条1号)。

もっとも、法は、事業遂行上の必要性がある場合には一定限度で時間外労働、いわゆる残業を認めることとしており、以下の2つの要件を満たした場合には残業を命じることも許容されます(労基法36条)。

  1. 会社が労使協定(以下、「三六協定」といいます。)を締結し、これを行政官庁に届け出ること
  2. 労働契約上、時間外労働を義務づける根拠があること

 

2. 三六協定の内容(要件①について)

前述のとおり、三六協定を締結するに際して、会社は労働組合等と書面による協定を行う必要があるところ、相手方となる労働組合等は、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」であることが必要です(労基法36条)。

また、三六協定においては、「時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数並びに1日及び1日を超える一定の期間について延長することができる時間又は労働させることができる休日」を定める必要があります(労基法規則16条1項)。かかる「具体的事由」としては、たとえば、「臨時の受注、納期変更等のため」、「機械、設備等の修繕、据付、掃除のため」、「当面の人員不足に対処するため」等が該当し、単に「業務の都合により残業を命ずることがある」といった記載では足りません

 

3. 労働契約の内容(要件②について)

三六協定を締結し届け出たとしても、それは時間外労働について基準違反の責任を問われない(刑事免責)というだけですので、会社が社員に対して残業命令をするためには、労働契約上、かかる残業命令権が会社に与えられていることが必要となります(片山工業事件(岡山地裁昭和40年5月31日))。

具体的には、就業規則や労働協約において、三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して社員を労働させることができる旨が定められており、当該就業規則等の内容が合理的なものであることが必要となります(日立製作所残業拒否事件(最高裁平成3年11月28日労判594号))。

 

4. 不当な残業命令拒否と処分

三六協定を締結し届け出た上、就業規則等に時間外労働を義務づける根拠が規定されその内容が合理的な場合、不当に残業命令を拒否する社員は誠実労働義務違反となります。そのため、かかる義務違反が就業規則上の懲戒事由に該当すれば、当該社員は懲戒処分の対象となり得ます。

ただし、社員に残業を拒否する正当な理由があるにもかかわらずこれを命じることは権利濫用になりうること、また、懲戒事由に該当するとしても直ちに当該社員を懲戒解雇することは無効とされるおそれがあることにご注意ください。

【参考文献】
菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

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