(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。
【質問】
2000年に設立して以来、当社も順調に成長してきて、今では社員数も100名の大台を超えるに至りましたが、設立から15年以上が経ち、社員の中にも明らかに「できる」社員とそうでない社員とに分かれるようになりました。一部、古参の社員の中には、未だに報・連・相等の基本ができていないなど、新入社員と比べても仕事の能率が劣る者がいます。こうした仕事のできない社員に対して、会社として厳しい態度で臨みたいのですが、何か注意すべき点があるでしょうか。
【回答】
まずは社内の人事考課制度を活用し、仕事の能率が悪い社員について、上司等による指導・注意等を行い能率改善を目指すことになります。かかる指導等を通じても改善されない場合には、人事考課制度の結果を昇給や賞与等に反映したり、配置転換を通じて当該社員の能力を別の業務に活用出来ないか検討します。
それでもなお当該社員の能率不良の程度が著しい場合には、就業規則上の懲戒事由に基づき懲戒処分を検討することになるでしょう。ただし、労働義務の不履行を理由に懲戒解雇が認められる場合は非常に限定的ですのでご注意ください。
【解説】
1. 労働者の労働義務
「業務の遂行—勤務成績不良社員への対応」で解説したとおり、労働者たる社員は、使用者たる会社との労働契約に基づき、会社に対する労働義務を負います(労働契約法6条)。
かかる労働義務とは、労働契約の合意内容の枠内で、労働の内容・遂行方法・場所等に関する会社の指示に従った労働を誠実に遂行する義務をいいます。
2. 人事考課制度の活用
人事考課制度は、労働契約に基づく指示内容の確定及び指示に従った労働かどうかの評価を行う制度であり、会社の定めた評価基準に基づき、社員の能力や仕事内容等を評価する制度をいいます。社員に対する公正な処遇や社員の能力開発等を目的としています。
具体的な人事考課制度の運用は会社ごとに異なりますが、通常は、会社の定めた考課期間の期首に社員ごとの目標を設定し、期末ごとに上司や部長等の考課者が目標の達成度や勤務態度・意欲等を評価し、人事部等に評価書を提出し確定する、というプロセスを経ます。場合によっては、上司のみならず同僚等による、いわゆる360度評価等を実施する会社もあります。
かかる人事考課の結果に基づき、社員の昇給や賞与が判定されるとともに、配置転換等の基礎資料になることもあります。このように、人事考課制度を通じて社員の業務に対する適正・能力等が査定されるため、ある社員の仕事の能率が他の社員に比べて極端に劣る場合、人事考課制度が適正に機能していればその結果に反映され、昇給や賞与、配置転換等にも反映されることになります。
3. 能率不良社員への対応
仕事の能率が極端に劣悪な社員は、債務の本旨に従った労務の提供を行わない場合といえ、労働義務について債務不履行となります。
もっとも、「業務の遂行—勤務成績不良社員への対応」で解説したとおり、労働義務の不履行を理由に解雇が認められる場合は、裁判例上極めて限定的に解釈されています(三井リース事件(東京地裁平成6年11月10日)、ゴールドマン・サックス・ジャパン・リミテッド事件(東京地裁平成10年12月25日)等参照)。
そのため、まずは人事考課制度を活用し、仕事の能率が悪い社員について、上司等による指導・注意等を行い能率改善を目指すことになります。かかる指導等を通じても改善されない場合には、人事考課制度の結果を昇給や賞与等に反映したり、配置転換を通じて当該社員の能力を別の業務に活用出来ないか検討します。
それでもなお当該社員の能率不良の程度が著しい場合には、就業規則上の懲戒事由に基づき懲戒処分を検討することになるでしょう。ただし、前述のとおり、労働義務の不履行を理由に懲戒解雇が認められる場合は非常に限定的ですのでご注意ください。
【参考文献】
菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)