【使用者向け】企業秩序⑦−会社に無断で兼業している社員に対する懲戒処分

【質問】

当社の就業規則では、「当社の許可なく、社員は他人に雇い入れられてはならない」旨規定しており、違反した場合には懲戒事由に該当することとしています。

ところが、社員Xは、平日の就業時間後や、休日中に、当社の許可なく無断で副業を行っており、それなりの収入を得ていることが判明しました。

そこで、当社としては、無断兼業を禁止している当社就業規則違反を理由に、

Xに対して懲戒解雇処分を下そうと思いますが、何か問題があるでしょうか。

 

【回答】

会社が社員に対して許可なく兼業することを禁止する旨の規定自体は基本的に有効と考えられていますが、兼業は本来会社の労働契約上の権限の及ばない、社員の私生活上の行為であることから、形式的に兼業禁止規定に違反したとしても、職場秩序に影響せず、かつ、会社に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様であれば、実質的には兼業禁止規定に違反しないものと考えられています。

ご相談のケースでも、Xの行為は形式的には会社の兼業禁止規定に違反していますが、会社の職場秩序に違反せず、かつ、会社に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様であれば、実質的には当該規定に違反していないものとして、懲戒解雇は認められない可能性があることに注意が必要です。

 

【解説】

企業秩序と服務規律

服務規律とは、服務に関する規範を中心として、会社が社員に対して設定する就業規則上の行為規範をいいます。

かかる服務規律の根拠として、判例上、会社は、労働契約関係に基づき、社員に対して企業秩序維持のために必要な措置を講ずる権能を持つとともに、社員は企業秩序を遵守すべき義務を負っている、とされています(JR東日本(高崎西部分会)事件(最高裁平成8年3月28日労判696号))。

 

職場外の行為と企業秩序

もっとも、かかる服務規律は社員が職場で服するルールであり、職場外における社員の行為には及ばないのが原則です。ただし、例外的に、職場外の行為が職場における職務に重大な悪影響を及ぼす場合には、服務規律の効力が及び、会社は当該社員に対して懲戒その他の処分を行うことが可能となります。

具体的には、最高裁判例において、職場外での職務遂行に関係がない行為であっても、企業秩序に直接の関係を有するものや、評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、企業秩序維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあり得る、とされています(国鉄中国支社事件(最高裁昭和49年2月28日労判196号))。

 

兼業禁止規定の有効性

実務上、「会社の許可なく他人に雇い入れられること」を就業規則において禁止し、その違反を懲戒事由としている会社は相当数あります。

かかる兼業禁止規定については、社員の私生活上の自由等を根拠としてその有効性を否定する見解もありますが、これまでの裁判例上、当該規定の有効性そのものが問題となることはほとんどないといえます。

 

兼業禁止規定違反に対する懲戒処分の可否

もっとも、兼業も基本的には会社の労働契約上の権限の及ばない社員の私生活上の行為ですので、かかる兼業禁止規定やその適用の有効性が問題になる場合も考えられます。

裁判例においては、兼業禁止規定違反については、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の兼業は当該兼業禁止規定に抵触しない、とするとともに、そのような影響・支障のあるものは当該兼業禁止規定に抵触し、懲戒処分の対象になるものと解しています(橋本運輸事件(名古屋地裁昭和47年4月28日)、上智学院(懲戒解雇)事件(東京地裁平成20年12月5日労判981号))。

具体的には、労務提供に支障を来す程度の長時間の兼業(小川建設事件(東京地裁昭和57年11月19日))、競業会社の取締役への就任(東京メデカルサービス事件(東京地裁平成3年4月8日労判590号))、使用者が従業員に対して特別加算金を支給しつつ残業を廃止し、疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働(昭和室内装備事件(福岡地裁昭和47年10月20日))、病気による休業中の自営業経営(ジャムコ立川工場事件(東京地裁八王子支部平成17年3月16日労判893号))などが、かかる兼業禁止規定に違反するものとされています。

 

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、Xの行為は形式的には会社の兼業禁止規定に違反していますが、会社の職場秩序に違反せず、かつ、会社に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様であれば、実質的には当該規定に違反していないものとして、懲戒解雇は認められない可能性があることに注意が必要です。

 

  • 【参考文献】菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

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