ケース別労働問題対応サービス その3

セクハラ・パワハラを主張された場合

労働問題は、人同士のトラブルに端を発します。
労働問題に発展するきっかけはささいなことかもしれません。

ですが、ひとたび労働問題が発生すれば、職場環境を悪化させるだけではなく、ともすれば企業の存続自体を左右しかねない問題にまで発展するおそれがあります。
そして、労働問題は、初動対応を誤れば、取り返しのつかないリスクが生じかねません。

本稿では、セクハラ・パワハラを主張された場合に企業が留意すべき7つのポイントを解説します。

 

【相談事例 パワーハラスメント】

A社の営業部長であるB氏は、部下であるC氏の営業成績が一向に改善しないために、厳重に注意しなければならないと考え、他の従業員も参加している朝礼の席上で、

「いつまで実績を出すことができないんだ。お前は無駄飯ぐらいのようだ。仕事に対する真剣さがないからこんな成績しか出せないんだ。来月も営業目標を達成できないんだったらお前に任せる仕事はないと思え。」と、他の従業員の前で大声で怒鳴りました。

B氏は、C氏の発奮を期待したつもりでしたが、C氏はパワーハラスメント被害を訴えてA社の人事部に相談をしました。

 

【相談事例 セクシャルハラスメント】

入社一年目の新入社員ですが、職場の歓送迎会で直属の上司にあたる課長から、「処女じゃないだろう」「エイズ検査を受けた方がいい」といった発言を繰り返し受けました。

同僚も大勢参加しており、いくら飲み会での酔った上での発言とはいえ、到底我慢できません。
これはセクハラにあたるのではないでしょうか。

 

【会社側の対応】

近年、ハラスメントトラブルは増加傾向にあります。
「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は平成14年度には約6600件とされていた一方、平成23年度には約4万5900件と増加しています(厚生労働省発表)。

上記相談事例のように、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントに関する相談も、年々増加しています。

パワーハラスメントやセクシャルハラスメントのトラブルは、一見すると加害者である従業員と、被害者である従業員との関係であって、企業は関係がないようにも思われます。
しかしながら、企業は、労働者に対し、就業(職場)環境配慮義務を負っています。

パワーハラスメントやセクシャルハラスメント被害が起きた場合、これを放置していると企業の法的責任も発生しかねません。
従業員からセクハラ・パワハラを主張された場面において、企業がとるべき初動等対応の7つのポイントを踏まえて説明します。

 

【セクハラ・パワハラを主張された場合の7つのポイント】

ポイント1:パワーハラスメントとは

パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。
パワーハラスメントに該当するかどうかは、以下の2つの要件があります。

  1. 上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること
  2. 業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当すること

ミスを犯した部下に注意や指導をすること自体は、職務の円滑な遂行上、一定程度許容されます。

 

ポイント2:セクシャルハラスメントとは

セクシャルハラスメントとは、①職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否するなどの対応により解雇、降格、減給などの不利益を受けること、又は②性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じることをいいます。

また、セクシャルハラスメントは、以下のように2種類に分類されます。

対価型セクシュアルハラスメント
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること

環境型セクシュアルハラスメント
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

なお、セクハラの被害者は、同性に対するものも含まれるほか、LGBTも対象とされています。

 

ポイント3:パワハラ・セクハラの違法性の判断基準

パワーハラスメントは、人格権侵害の一類型であり、以下の①〜③のいずれかに該当する場合には違法とされます。

  1. 問題となっている業務命令等が、業務上の必要性に基づいていないもの
  2. 外形上、業務上の必要性があるように見える場合であっても、当該命令等が不当労働行為目的や退職強要目的など、社会的に見て不当な動機・目的に基づいてなされていること
  3. 当該命令等が労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えること

また、セクシャルハラスメントも、人格権侵害の一類型であり、(被害者・加害者)「両当事者の職務上の地位・関係、行為の場所・時間・態様、被害者の対応等の諸般の事情を考慮して、行為が社会通念上許容される限度を超え、あるいは社会的相当性を超えると判断されるときに不法行為が成立する。」(金沢セクハラ事件(名古屋高裁金沢支部平成8年10月30日労判707号))とされています。

パワーハラスメント・セクシャルハラスメントに該当するかどうか(=違法となるかかどうか)は、以下のように整理できます。

ポイント4:ハラスメントの責任類型

パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのハラスメントが発生した場合、加害者だけでなく、企業にも法的責任が発生することになります。

ハラスメントに起因する責任類型を整理すれば、以下のようになります。

  1. 加害者の法的責任
    ・労働契約上の責任(就業規則違反)
    ・民事責任
    ・刑事責任
  2. 使用者の法的責任
    ・民事責任
    ・刑事責任
    ・行政責任
  3. 労災補償
  4. 加害者の道義上の責任
  5. 使用者の経営責任・レピュテーションリスク

 

ポイント5:ハラスメントに伴う会社のリスク

ハラスメントが発生した場合、企業側が負担するリスクは、以下のように整理できます。

  1. 不法行為責任
    ・ 使用者責任(民法715条)
  2. 債務不履行責任
    ・使用者は、労働者の安全に配慮する義務を負っている(労働契約法5条)
    ・パワハラが生じた場合、職場環境整備義務及び職場環境調整義務に違反したものとして、債務不履行責任(民法415条)を問われる場合があり得る
    ・従業員が派遣労働者であった場合、派遣会社(派遣元)だけでなく、派遣先会社の責任でもあるため、派遣先でパワハラが生じた場合、派遣先も責任を負う可能性がある
  3. レピュテーションリスク
    ・パワハラが訴訟に発展した場合、「ブラック企業」等とレッテルを貼られるおそれがある

 

ポイント6:パワーハラスメント発生時の会社の対応

パワーハラスメントが発生した場合、企業側として取るべき対応は、以下のように整理できます

(1) ヒアリングの実施

会社が迅速な対応を怠った場合、不作為を理由として損害賠償責任を負う可能性がある(横浜地裁平成16年7月8日判時1865号、大阪地裁平成21年10月16日参照)

(2) 事実関係の精査

  1. 客観的資料の収集(メール、メモ、写真等)
  2. 相談者からのヒアリング
  3. 加害者からのヒアリング
  4. 第三者(同僚等)からのヒアリング


(3) 社内処分の検討

加害者が被害者に対して逆恨みをするケースも(名誉毀損等)
懲戒処分の妥当性の検討(過去の事例とのバランス)
被害者保護の徹底

(4) 再発防止策の構築

  1. 管理職を対象にしたパワハラについての講演や研修会の実施
  2. 一般社員を対象にしたパワハラについての講演や研修会の実施
  3. パワハラについての相談窓口の設置
  4. 就業規則等の社内規程への盛り込み
  5. アンケート等による社内の実態調査

 

ポイント7:セクシャルハラスメント発生時の会社の対応

セクシャルハラスメントが発生した場合、企業側として取るべき対応は、以下のように整理できます。

(1) ヒアリングの実施

会社が迅速な対応を怠った場合、不作為を理由として損害賠償責任を負う可能性がある(横浜地裁平成16年7月8日判時1865号、大阪地裁平成21年10月16日参照)

2) 事実関係の精査

  1. 客観的資料の収集(メール、メモ、写真等)
  2. 相談者からのヒアリング
  3. 加害者からのヒアリング
  4. 第三者(同僚等)からのヒアリング
     

(3) 社内処分の検討

加害者が被害者に対して逆恨みをするケースも(名誉毀損等)
懲戒処分の妥当性の検討(過去の事例とのバランス)
被害者保護の徹底 

(4) 再発防止策の構築

  1. 管理職を対象にしたセクハラについての講演や研修会の実施
  2. 一般社員を対象にしたセクハラについての講演や研修会の実施
  3. セクハラについての相談窓口の設置
  4. 就業規則等の社内規程への盛り込み
  5. アンケート等による社内の実態調査

 

【セクハラ・パワハラを主張された場合にとるべき初動対応】

1 被害者からのヒアリングを実施する

セクシャルハラスメントやパワーハラスメント被害の申告があった場合、企業としては決して無視したり、過小評価したりすべきではありません。
まずは被害者から事実関係をヒアリングし、事態の把握に努めなければなりません。

 

2 事実関係を精査する

次に、被害者の主張を鵜呑みにせず、企業側でも被害申告のあった事実を精査する必要があります。具体的には、メールや手紙等の客観的資料の収集や分析、被害者本人からのヒアリングや、職場の同僚等、第三者からのヒアリングも検討する必要があります。ただし、職場の同僚等、第三者から事情を聴取する場合には、被害者のプライバシーの侵害にあたらないよう十分配慮する必要があります。

また、加害者とされる人物からも事情を聴取する必要があります。加害者側の弁解の機会も与えずに一方的に処分してしまった場合、加害者から適正手続違反等を争われる可能性があります。

被害者に配慮するあまり、加害者の言い分も聞かずに処分するような拙速な対応をしてしまうと、加害者から企業側の対応の不備を追及されるおそれもあります。

 

3 加害者の社内処分を検討する

事実関係の精査の結果、加害者の非違行為が確認できた場合には、社内処分を検討することになります(懲戒処分)。
なお、懲戒処分に付す場合には、過去の懲戒処分の先例とのバランスも考慮しなければなりません。

 

4 再発防止策を講じる

加害者を処分しただけで、企業側として果たすべきことをすべて行ったことにはなりません。
今後も同種のハラスメント問題が生じないよう、管理職や一般社員を対象とした社内研修を実施することが望まれます。

また、ハラスメント対策委員会を立ち上げ、被害者が相談しやすい環境を構築することも大切です。

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